あとがきに<江戸時代初期、日本人として初めて砂漠を歩いて聖地エルサレムに旅した人>とあるペトロ岐部カスイの長い苦難の旅の物語である。最終目的地のローマには、今であれば航空機で10数時間だが5年間の年月を要した。長崎から出港した船は乗り継ぎながらマニラ、マレーシア、インド。その後、水夫となってホルムズ海峡を抜け、さらに駱駝曳きとして砂嵐と熱砂のイラク・シリアを歩く。隊商と別れ一人、エルサレムにたどり着く。聖地巡礼を終え、再び歩き出してトルコからイタリアに入り、ヴェネチア・フィレンツエを経由し、ついにローマへ。ここまでも壮大・壮絶なドラマだが、キリシタン迫害の度合いが増す日本へ帰国する船旅が往路以上の困難を極める。現在分かっている限られた記録を作者は<冒険へのあこがれや好奇心のほかに確固とした聖地巡礼への志>で繋いだ作品。15年後にやっとの思いで帰国を果たし、布教中の東北で捕えられて殉教した主人公の信仰の強さが心に残った。