東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

山田篤美,『黄金郷伝説』,中公新書,2008

2008-12-21 17:48:14 | 移動するモノ・ヒト・アイディア
書名読み〈えるどらどでんせつ〉、副題「スペインとイギリスの探検帝国主義」

この著者(やまだ・あつみ)はどういう人物なのだ??
初めて読む著者であるが、ムガール美術の専門家である。女性である。
それが夫の赴任地であるベネズエラにいっしょに住み、ベネズエラの歴史に興味を持つ。そして、十年もたたないうちに、本書を書きあげるほどの研究をした、ということになる。
夫の赴任地について行くだけでも、近頃の女性としては珍しいのに、それまでの業績を中断し、新しい分野にいどむとは、なんという人なのだ?

内容はすばらしい。新書の見本だ。ひとつのトピックをつきつめ、周辺の要素もからめ、素人にわかりやすく説く。

室町幕府十代将軍足利義稙(よしたね、と読むそうだ)が統治するジパングをめざしたコロンブス(コロンと書きたいが、本書の表記に従う。ちなみに本書の固有名詞のカタカナ表記は適切で読みやすい。)、そのコロンブスがテラ・フィルメ、島ではなく大陸、に到着したのは第3回航海、現在のベネズエラ、パリア半島である。

以後、この地は、大物が跋扈する。
アメリゴ・ヴェスプッチ、アギーレ、ハクルート、ウォルター・ローリー、ダニエル・デフォー、シモン・ボリバル、アレキサンダー・フンボルト、ディズレーリ内閣、ソールズベリー、コナン・ドイル、まあここいらへんは知っている。

以上のような大物をベネズエラ、カロニ川流域、ロライマ山、バリマ川源流域、グアヤナ楯状地、という地域を中心に並べかえると、本書が成立する。
もちろん、大物の陰に隠れた人物も多数いたわけで(わたしが知らなかっただけですが)、

ヒメネス・デ・ケサーダ
アントニオ・デ・ベリオ
ロバート・H・ションバーク
チャールズ・バーリントン・ブラウン
グスマン・ブランコ大統領

といった人物にページが割かれる。
ガルシア=マルケスの小説も当然採りあげられるし、エリック・ウィリアムズも進化論もラン(蘭の花)・ハンターも登場する。
イギリスによるトランスヴァール地域の領有、アフガニスタン~ヒマラヤ地帯の測量と地図製作、パピヨン(アンリ・シャリエールの自伝を元にした映画)、観光地サルト・アンヘルなどなどが盛り込まれる。

英領ギアナの成立が、ナポレオン三世の後のシンガポール成立と同時代、つまりオランダから剥奪したもの。あるいは、イギリスの測量・探検が『地図が作ったタイ』(←未読です、無責任な引用ですまん)と同時代。東南アジアの事情と重なるものがあるので、参考にどうぞ。

わたしの好みにぴったり合った内容である。
とにかく著者の語り口、さまざまな事件のミックス、視野の広さがすばらしい。

ただひとつ文句をつけると、帯の文句。「探検はロマンではなく侵略の道具だった」なんて、あったりまえでしょう。まさか、いまさら、こんなあったりまえのことを書いただけの本ではないか、と手にとるのを一瞬躊躇したよ。たしかに本文中にもこの文句は出てくるが、そんなナイーブな内容ではありませんので、みなさま手にとってみてください。


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