フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 7月~9月期のテレビドラマももうすぐ始まって1ヶ月。それぞれのドラマの印象が固まってきました。あいかわらず漫画原作ものが多いという特徴ははっきりしていますが、その他に目につくのが、20歳前後の若手女優さんたちのイメージチェンジぶりです。
          
 特に目立つのは『パパとムスメの7日間』の新垣結衣と『花ざかりの君たちへ』の堀北真希
。ガッキーの方は父親と体が入れ替わってしまうという、大林映画『転校生』のような設定。ですから、父親(館ひろし)になったつもりの男っぽい演技をしています。堀北真希の方は、好きな男の子を追いかけて男のふりをして男子校に入学する女の子の役。こちらも設定から必然の男の子っぽい演技をしています。          
 もう一人あげるとすれば、『ホタルノヒカリ』の綾瀬はるか。こちらは、男の子っぽいというのとは違いますが、家に帰るとグータラでまったく男にも縁がないという「干物女」の役。
 ちなみに「男っぽい」とは何か?「女っぽい」とは何か?これは実は重大な問題なのですが、このブログは論文ではないので、詳しくは触れないことにします。ただ、各ドラマでどのようにそのイメージを出そうとしているかは興味深いところです。
 たとえば、『パパとムスメの7日間』では肉体と精神が入れ替わるのですから、外見でガッキーの「男っぽさ」を出すことはできません。そのために、ちょっと脚を開いて座ったり、男言葉を使ったりすることで、「男っぽさ」を出そうとしています。それに対して、堀北真希ならショートカット、綾瀬はるかならジャージ、という外見で「男っぽさ」を出そうとしています。
 好きな女優さんのイメチェンを楽しむファンも多いでしょうから、それはそれでいいのですが、この3人の中では、綾瀬はるかが一番成功しているように思います。『たったひとつの恋』のようなお嬢さん役の多かった綾瀬が、コメディーでもかなりいけるということを示したという意味で、女優としての役柄を広げることに成功していると思いました。
 ただ、「干物女」ってそんなに特別なのでしょうか?普段恋愛に関心がない、というところだけリアリティがないような気がしますが、それを除けば、私には「普通みんなあんなもんだろ」(外でいい顔して家に帰ったらグータラ)って思うのですが、違うんでしょうか。
 一方、男の子っぽい役柄の多かった井上真央が、『ファーストキス』で女の子っぽいイメージにすっかり変身したのも見逃せません。『キッズウォー』
から始まって最近の『花より男子』まで、男の子っぽくてたくましい女の子役ばかりだった井上が、この作品ではわがままで性格のかなり複雑な、いわゆる「小悪魔的」な女の子という役柄をこなしています。
          
 実は、今期の作品の中では、この『ファーストキス』が一番うまくいっているのではないかと私は思っています。かなり複雑な性格の美緒を井上真央が見事に演じていますし、その良さを井上由美子の脚本が引き出しています。ちなみに、井上由美子は、脚本家としてすでに数多くの作品を書いています。「ひまわり」(1996年、NHK)「きらきらひかる」(1998年、フジテレビ) 「北条時宗」(2001年、NHK)「白い巨塔」(2003年、フジテレビ)「14才の母」(2006年、日本テレビ)などを書いていて、ヒューマニティの強い作風と言えるでしょうか。その点は今回の『ファーストキス』にも共通しますが、今回は井上脚本にしてはコメディー色が強いのが特徴です。
 具体例で脚本の良さを言うなら第3回。子どもの頃から病気がちだった美緒を初恋の相手に会わせようと奮闘する兄・和樹(伊藤英明)。「会いたくない」と突っぱり、兄にも初恋の相手にもひどいことを言ってしまうのに、その一方で初恋の思い出のカツサンドを作ろうと懸命になっているという、美緒の錯綜した気持ちが描かれ、その葛藤を井上由美子の脚本と井上真央の演技が巧みに表現しています。
 その意味で言うと、今回のドラマの中では、この『ファーストキス』に断然期待したいと思っています。
 



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