史跡訪問の日々

幕末維新に関わった有名無名の人生を追って、全国各地の史跡を訪ね歩いています。

岡崎 Ⅱ

2009年11月27日 | 愛知県
(岡崎城)
 天文十一年(1542)、徳川家康は岡崎城内で誕生した。桶狭間の合戦で今川義元が戦死すると、これを契機に岡崎城を拠点として地歩を固めた。本拠地を浜松に移したあとも、嫡男信康を岡崎城主とし、その後も重臣の石川数正、本多重次を城代に置いた。江戸幕府を開いた後は、石高こそ五万石前後であったが、家格の高い譜代大名が歴代岡崎城主となった。岡崎城が「神君出生の城」として神聖視されており、大名は岡崎藩主に任じられることを名誉にしていたと伝えられる。


岡崎城
写真右手前の亀型の台座は東照公遺訓碑
有名な「人の一生は重き荷物を負いて遠き道をゆくがごとし」が刻まれている

 開幕直後は本多氏(康重系統)、継いで水野氏、松井氏、本多氏(忠勝系統)と引き継がれた。幕末の岡崎藩主は、本多忠民(ただもと)。讃岐高松藩から養子に入った人であるが、天保七年(1836)、三河加茂で発生した百姓一揆の鎮定に功があり、以来、寺社奉行や京都所司代などの要職を歴任した。桜田門外の変から坂下門外の変の間、老中を務め、一旦、離職したが元治元年(1864)再度老中に任じられた。譜代中の譜代である岡崎藩の藩論の基本は佐幕ではあったが、重臣たちの多くは日和見であった。鳥羽伏見で幕軍が敗れると、忠民は朝廷につくことを決めた。このとき小柳津要人(のちの丸善社長)ら、一部の不満分子は脱藩して遊撃隊や榎本艦隊に合流したという。明治二年(1869)には版籍奉還を願い出て、家督を忠直に譲って隠居した。


徳川家康銅像


本多平八郎忠勝銅像


岡崎城 堀と神橋

(藩校允文館跡)


岡崎藩校允文・允武館跡

 藩校允文館・允武館趾の場所を知りたいと思い、岡崎公園内の観光ガイド案内所を訪ねた。観光ガイドの方々は忙しそうであったが、わざわざ現地まで連れて行ってくださった。年配の観光ガイドの方の説明によると、以前この場所には学校があったらしいが、今はショッピング・センターが建てられており、かつて藩校があったことを知るよすがとしては、石碑があるだけである。
 岡崎藩校允文館と武芸を教える允武館は、時の藩主本多忠直が明治二年(1869)この地に江戸の藩校を移して開設したものである。允文館、允武館が存続したのは、廃藩置県までの数年間であったが、県立額田郡小学校に発展し、岡崎における最初の学校となった。

(大樹寺)
 新幹線を三河安城で下車して、東海道線で岡崎に出る。そこから愛知環状鉄道に乗り換えて十分ほどで大門駅に至る。大門駅から十五分ほど歩くと大樹寺の巨大な山門が見えてくる。


大樹寺 山門

 大樹寺は、松平家、徳川家の菩提寺として隆盛を極めた。この巨大な山門からは、かつて境内の一部であった小学校にある総門を通じて、遥かに岡崎城が望まれるように建てられている。「大樹」とは、唐名で将軍を意味する。松平氏の発展とともに寺運は栄え、松平清康が三河統一を成し遂げた頃、伽藍や多宝塔が建立されている。桶狭間の戦いで今川義元が戦死した際、今川方についていた家康がこの寺に逃げ帰り、先祖の墓前で自害しようとしたが、住職から「厭離穢土 欣求浄土」と諭され、再起したという。
 「位牌は三河大樹寺に祀るべし」という家康の遺命により、以後歴代将軍の等身大の位牌が安置されることになった。ただし、十五代将軍慶喜は神式で葬られており、法名を持っていない。つまり位牌が存在していない。


位牌堂

 本堂内で拝観料を支払うと、位牌堂や文化財収蔵庫を見ることができる。歴代将軍の背の丈の位牌が並ぶ様子は壮観というほかはない。大樹寺の歴代将軍の位牌のことは「徳川将軍家 十五代のカルテ」(篠田達明 新潮新書)で知った。この本を一読して大樹寺を訪問されることをお勧めしたい。

 収蔵庫には奇跡的に火災による焼失を逃れた絵師冷泉為恭の襖絵が展示されている。これも一見の価値がある。


岡田為恭の位牌

 本堂に冷泉為恭(ためちか)の位牌が置かれている。冷泉為恭は別名を岡田為恭ともいい、大和絵を得意とした絵師である。
 絵師として京都で活躍していたが、文久二年(1862)頃、所司代酒井若狭守に近づいたことから、尊攘浪士に狙われるところとなった。為恭は紀州粉河寺に逃れ、さらに堺の商家や大和丹波市の永久寺などに身を隠した。しかし、元治元年(1864)五月、長州の浪士大楽源太郎らに斬殺された。司馬遼太郎先生の短編小説「冷泉斬り」(文春文庫「幕末」所収)に詳しく描かれているが、ほとんど無抵抗のターゲットを執拗に追い、命を奪おうという刺客の精神状態は狂気というほかはない。

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