唐突な物言いだが、ビートルズやストーンズが凄いなぁと思う理由のひとつに、メンバーが殆ど変わらないということがあげられないか? ビートルズは今にして思えば確かに活動期間が然程長くはなかったかもしれないがデビューから解散まで一度も変わっていないし、ストーンズに至っても、ブライアン・ジョーンズ(私はブライアン派だが・・・)の穴埋めを、ミック・テイラー、ロン・ウッドとしていっただけであり、現役続行中である。ロックバンドというのはこういう括りが非常に面白く、これは余り、ジャズなんかには当てはまらない。特に、今回のスティー・ダンに関していえば、バンドらしき形態は初期だけであり、この名盤の録音に関して言えば、オリジナル・メンバーとして、ドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーのふたりのユニットを中心に、数々の名立たるアーティストが結集して出来た、当時のアメリカポピュラーミュージックの集大成という言い方が出来る。
スティーリー・ダンはアメリカン・ロックを苦手としている私でも、珍しく全てのアルバムをレコード・CD共にライブラリーに所有している、唯一のアメリカン・ロック・アーティストである。というか、このバンドの歴史と音楽の変遷は実に面白いが、その点に関してはまたそれぞれのアルバムで触れるとして、この「彩~エイジャ~」は、まず、日本で最初の世界的モデル山口小夜子を起用したアルパムジャケットからして印象度が深い。発売当時、LPレコードの表面がエナメルのように光沢を帯びていたのを 今でも忘れない(CDでは紙ジャケ版が出たがあの光沢は出せなかった)。更に参加ミュージシャンの面々の凄いこと。ここで全ては到底紹介できないが、例えば当時、旬な面子としては、ギタリストのラリー・カールトンと、リー・リトナーがこの直後にフュージョン・ブームで一世を風靡する直前であり、キーボードではジョー・サンプルも参加している。また、マイケル・マクドナルドもこの翌年、ドュービー・ブラザーズ最大のヒットとなる「ミニット・バイ・ミニット」を発表する。それだけではなく、特に、表題曲には、ウェイン・ショーターとスティーヴ・ガットが参加して何れも名演奏を残している。勿論、このふたりに関してはそれまでもビック・ネームであるが、これ以降のフュージョン・ブームにも一番ジャズに近い位置関係にあって脚光を浴びた。もうひとつ、「アダルト・オリエンタル・ロック」という呼ばれ方をした音楽ジャンルの先駆けとして位置づけられ、次作品「ガウチョ」に至っては、そのジャンルの最高峰という評価が与えられたほどであった。確かに、このユニットを中心としたミュージシャンの集合体というのは、ロックファンからすると一種奇妙な感じがしたかもしれないが、一方で前述したように、アメリカのジャズシーンに関して言えば、アルバムや曲ごとにメンバーが変わるのはごく当たり前のことであるし、逆の見方をすれば、そういうジャズミュージシャンたちが、よりポピュラーにものを求めたという現われだったのかもしれない。この当時のジャズシーンに勢いはなく、だからこそ、卓越したテクニックをちょっとした発想の転換からロック音楽に持ち込んだという見方もできる。そういう意味では、このアルバムはアメリカ音楽史の大きな一時代を開いた傑作であるといえる。
アメリカン・ロックというのがこんな音楽ばかりだったら、もしかしたらもっと興味を持ったかも知れない。いや、逆かもしれない。アメリカン・ロックというのは何かいつも地盤が不安定で、その都度どんなものが出てくるか分からないから、期待をしつつものめりこまなかったのかもしれない。だからこそ、このアルバムの「至上の出来」に感激したのである。
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このアルバム、発売当初聴きまくって、音楽論やミュージシャン論を毎日の様に戦わせていましたね。今でも懐かしく思います。
そういう意味で私の音楽歴史に残る1枚です。