音楽は語るなかれ

音楽に関する戯れ言です。

夜明けの口笛吹き (ピンク・フロイド/1967年)

2010-08-08 | ロック (プログレッシヴ)


プログレの第一人者、ピンク・フロイドのファーストアルバムは、日本での邦題が「サイケデリックの新鋭」と命名されたように、サイケなイギリスのロックバンドであった。

一般的に「ブログレの歴史はフロイドの歴史」とか、「プログレ好きではなく、フロイド好き」などと言われるように、ピンク・フロイドはまさにプログレッシブロックの歴史そのものである。そしてこのアルバムで分かるように、プログレというのは、サイケデリックから進化した音楽だということが言える。さらに言えば、その進化の過程でもっとも重要だったのが、シド・パレットという要因である。生命体が突如、大いなる変身を遂げるように、音楽もある日突然、突拍子もない方向へと導かれることがある。プログレの成立の種子はビートルズも、ボブ・ディランも持っていたし、その種蒔きはすでに始まっていたのだが、その決定的な要素はシド・パレットが持っていたのである。

このアルバムは確かにサイケデリックである。しかし、アメリカのサイケとはかなり違う音である。サイケとはそもそもが、LSDなどの幻覚剤によってもたらされる心理的感覚および、幻覚、または、極彩色のぐるぐる渦巻くイメージ(またはペイズリー模様)によって特徴づけられる視覚・聴覚の感覚の形容表現のことであって、いわばそういうものを彷彿させるロック音楽である(または独特の浮遊感と超現実的な音作りを基調としたロックとして分類される)。発祥はアメリカ西海岸ので1967年に「サマー・オブ・ラブ」というヒッピーの音楽ムーブメントでピークに達した。音楽のみならず当時の最先端な流行であったのだが、この流れはイギリスをも席捲したが、そこに登場したのがこのシド・パレット率いるピンク・フロイドである(というか、この記事では少しフロイドよりの物言いをする)。サイケデリックロック自体は、例えば、ドアーズやジェファーソン・エアプレインにもみられるように、サイケの引き起こす覚醒的な部分よりもむしろ倦怠感としての表現が強く、例えば、ジミ・ヘンはある意味でその境地ともいえるが、一方でジミ・ヘンの音楽にも含まれているプログレスな部分を、所謂、サイケとしての幻覚幻聴の世界ではなく、現実に引きだしたのがこのシド・パレットの役割であり、そして、このアルバムなのである。また、シド・パレットがほとんどの曲を書いているものの、「星空のドライブ」は、パレットだけでなく全員が参加していて、このアルバムの中ではちょっと毛色の違った曲になっていて、実はこの後のフロイド音楽の方向性を示しているとも言える。実はこの曲には沢山の逸話があって、そもそもが即興曲だったのがライブでの評判がよく、アルバムに入れることになったという説があり、当時のアンダーグラウンド時代の彼らの盟友であるピート・タウンゼントは、「このアルバムには残念ながら彼らのライブでの力量が発揮されていない」と嘆いている。事実、この曲に限っては当時、30分以上の即興演奏が話題だった。そう考えると、フロイドの方向性というのは、シドを中心としていながらも、他のメンバーとの偶然発揮された総合力ということになり、シドが土壌になっていたものの、上積みを作り上げたのは後々音楽界の歴史を塗り替えていくことになるメンバーであることは間違いない。こうして、プログレという音楽が出来上がったのである。

尤も、この音楽進化を最初に予知したのはかのポール・マッカートニーであり、同年に発売になった「サージェント・ペパーズ~」収録中にフロイドのレコーディングに立ち会い、「完全にノックアウトされた」と言って帰ったという。「サージェント~」がやはりプログレの要素がありながら、それよりも「ロック史上の名盤」で終わってしまったことは、ポールの拘りをフロイドに任せたことによって、同アルバムのアクがかなり取られたのだと思われる。当作品はフロイドの、というよりも、シド・パレットの最高の作品である。


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