音楽は語るなかれ

音楽に関する戯れ言です。

タイダル (フィオナ・アップル/1996年)

2012-08-19 | 女性ヴォーカル


ロック界で最高の女性ヴォーカリストは誰かと尋ねられたなら、筆者はジャニス・ジョプリンであると即答できる。これは歌が上手いとか曲が良いとかそういう基準はなにもない。ロックのFemale Vocalistイコール・ジャニスというだけだ。だが、このフィオナはそれ以上、いや次元が違うので比較対象にはならないが、兎に角頂点に立った女性である。あ、頂点という言い方もなにかと比較をしてしまうから違う。筆者がなにを言いたいのか、このレビューを読んでいただければお分かり頂けると思う。

フィオナ・アップルは、ミューヨークはマンハッタンのエンタメ界にドップリ浸かった一族に生まれた。当然、彼女の進むべき道は生まれたその時から決まっていたのかもしれない。だがこの作品が発表されるまで必ずしも彼女は順風満帆・前途洋々の人生を歩んできた訳では決してない(その辺の細かいこと、プライバシーに関しては本人に失礼なので、彼女自身が明言していること以外、このブログでは書くつもりはない)。だが、その殆どのいわば「告白」はこの作品に表している。"Sullen Girl"では12才の少女に起こった悲劇を書いているが、このリリックは同時に美しくもある。"Criminal"ではこの曲そのものよりそのPVが話題になり、これは全米を騒然とさせた。しかしフィオナはそんな事で一歩もたじろいだりしないし、攻撃には防御でなく攻め返す。そこがこのビューティフルな容姿を持ってして、決してそれだけで生きている訳はない、同時にそれは音楽の才能だけで歌っている訳ではない、彼女らしい本当の強さなのだ。フィオナ自身の言葉、「あれが私を有名にしたけど、私は誇りに思っていない…ビデオに出てきたような女の子がいいとは思わないし、困惑している。でもあの曲が彼らが犯した過ちを神に告白する内容になっていることは認めるわ…だけど物事がねじ曲げられて解釈されることがいかに恐ろしいかを思い知った経験だった」と。そしてあの"Never Is A Promise"は音楽史に残る名曲であると思うのだが、フィオナもこの曲は初期のツアーでは毎晩演奏していたけど、あまりにもパーソナルな内容の曲で毎日演奏するのは辛く、演奏中泣いてしまうため、披露しなくなったという。こういう部分にもフィオナの人間らしさと、強さを前面に出そうという心意気は感じるが、なにしろ10代で、良くも悪くも、普通の女の子だったら到底体験することのない栄誉、賛辞、怒り、悲しみ、侮蔑、屈辱、そして数々の感動を人々に提供したことは一体彼女に取ってなんだったのだろうと思う。しかし、この作品を何度も何度も聴いていると少しだが、彼女に共感できる気がする。だから筆者は思う。ジャニスは確かに最高のロック女性ヴォーカルだが、フィオナは女性という枠に捕らわれない最高のシンガーであると。ジャニスの憧れ、ジャニスの様なシンガーになりたい人はたくさんいたし、目指した。しかし、フィオナに憧れ、もしフィオナを目指しても無理だ。フィオナはそういう対象ではないし、フィオナを超える女性シンガーは今後も現れないだろう。だが、形は全く違うがガガアデルという昨今の超売れっ子はフィオナからヒントを得ているのは明確である。そうフィオナの存在は既にバイブルなのである。

フィオナが音楽業界に飛び込むきっかけとなったのは、レコード会社の重役のべビーシッターをしていた友人にデモテープを手渡したときだったらしいが、この時フィオナの、ピアノ演奏や歌詞もさることながら、メゾ・ソプラノの声がCBSのアンディ・スレイターの気をひき、レコード契約へと導いたという。そう、フィオナは最初から「女性ヴォーカル」の括りではなかったのだ。しかしこの作品は本当に「心の名盤」なのである。


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