音楽は語るなかれ

音楽に関する戯れ言です。

ポスト (ビョーク/1995年)

2012-10-25 | 女性ヴォーカル


ビョークの音楽は正直、実に興味深い。筆者は彼女の音楽を聴いていると、ポップという領域に関わらず、音楽のジャンルって、一体なんのためにあるのだろうかと、いつも疑問符をうってしまう。実際にこの作品はソロデビューになる前作「デビュー」同様、その後の作品がよりテーマ性をもった作品になっていくのと比べるとかなりポップな作品だ。実際のところビョークという人はアートそのもの、つまり本当にアーティストだと言っていいが、その人のポップを代表する作品がこの2作であると考えると、やはり普通に音楽をBGM程度に楽しもうという人には絶対にお薦めしないアーティストである。だが、音楽が然程好きではなくても、現代の音楽に芸術性とか、あるいはもっと根本的な人間性とかという部分を探求しようとする人には、このセンスは多分なにかのヒントをくれる筈だと思う。

ビョークの楽曲にはひとつの共通点がある。それは、イントロは至ってシンプルであり、また序盤はそれに輪をかけて面白みを感じない。音程も然程変化がない。音読でいえば、まさに棒読みみたいな感じだ。だが、突然、もしくは作品によってはジリジリとテーマに入ってきて、その後一気に広がりをみせる。それは、例えていえば、入口の狭い洞窟を、明かりを灯して恐る恐る入っていくと、暫くは真っ暗で、引き返した方がいいのではないかという一種の恐怖感を感じた次の瞬間、そう、まさにそれが絶妙のタイミングで世界が一変してしまう。洞窟でいえば、明るくなって回りに美しい壁画や何十体という仏像の数々、そして亡き王の財宝の山(もう、なんか言っていることが滅茶苦茶・・・)が次々と現れる。そんな楽曲がビョークの特徴である。だから、ビョークはオルタナ音楽の中枢にしっかり位置づけられたといっても過言ではない。だが、それはイコール彼女がソロデビューするまでの、言わば歩んで来た軌跡の積み重ねと、同時にその多種多彩な彼女の経験則が、音楽という芸術の空間世界で幾重にも重なり合わさって構築される、彼女の実像と虚像が交錯したなんとも興味深い世界、そして「音」なのである。実際、例えばこの作品では、"It's Oh So Quiet"は定番のポップソングが土壌、メロディラインにあるものの、彼女が歌うと全く興味深い、奥の深いポップアートになってしまう。これこそビョークがビョークたる所以である。いや、この曲だけではない、わかり易い曲だから例にあげたのであって、このアルバムすべてがそうだ。そして前述の音楽の変化、追求がオルタナティヴの本質なのではないか。だから彼女はその中枢に居られるのである。

この後も彼女のアルバムはすべて前述のある種、法則性に近い形で構成されている。それが次作からはアルバム全体にもテーマを持ち合わせてくるから実は一層面白くなってくるのである。そしてそれは、アイスランドの小さな才能がポップ音楽界のみならず現代アートを圧倒するのに、この作品からわずか4年の歳月があれば十分だったのである。


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