音楽は語るなかれ

音楽に関する戯れ言です。

デンジャラスリィ・イン・ラヴ (ビヨンセ/2003年)

2012-04-16 | 女性ヴォーカル


正直なところ、デスチャ(デスティニーズ・チャイルド)のデビューを知った時、私はこのユニットは長く続かないだろうし、また、売れないだろうと思った。なぜなら、既にTLCがこの構成では全く先んじていたし、また彼女たちが前座をやっていたクリスティーナ・アギレラとは、この時点でちょっと格違いだと思ったからだ。しかしこの予想、半分は当たり、半分は外れた。彼女たちは再結成したものの、そんなに長くは続かなかった。しかし今現在は「世界でもっとも知られているガールズ・グループ」という異名をもっているほどに売れまくった。そして中でもこのビヨンセに至っては音楽もさることながら多方面で活躍し、今や世界中の若い女性のファッション・リーダーになってしまった。正直、音楽面も含めてここまで行った女性ソウルシンガーは彼女以外には見当たらないし、私自身も、前出のアギレラは別格としても、ビヨンセも大好きな「実力派シンガー」である。

この、ファースト・ソロ・アルバムもいい意味で裏切られた。女性シンガーというのは1990年代の後半から、所謂ひとつの決まったジャンルに収まるものではなくなっていたが、それは勿論、それまでは例えば、ロックとかソウル、ジャズやカントリーといったそれぞれの領域にもともと収まっていたわけである。それが、1980年代後半からの「オルタナティブ」の本格的な市民権と、一方でマドンナの「ライク・ア・プレイヤー」などに見られる、女性という囲いには収まらない世間への提言といったあたりから、妙に音楽の線引きは無意味なものであると誰もが認識をし始めた。しかし、一方では長いことそういう事実を黙認してきたのかはどうか分からないが、改めてそんな光景に、商業音楽はいつから男尊女卑だったのかを首を傾げたというのが偽らざる本音でもあった。なので、1990年代の後半に、それまでポップ音楽のメインストリームの主軸を辛うじて守ってきたロック音楽がついに衰退し、マライア・キャリーブリトニー・スピアーズが完全に取って代わった事実を、まだ音楽関係者は認めようとしなかった。私もその一人だったのかもしれないが、21世紀になって三度、ロックが復活するまで、公には知らぬ存ぜぬを通していたのも事実。でも、個人的には辛い時代だった。で、ビヨンセも(大体それまでデスチャもきちんと聴いたことなどなかったから)勝手に、ブリトニーみたいなサウンドなんだろうなって決めつけていた。だから、本当にこの作品を聴いたときはいい意味で裏切られた。これは全く違うって。ヒットチャートも彼女を支持して、シングルカットされた"Crazy In Love"は8週連続第1位となり、アルバムも売れて、アメリカで400万枚、全世界では800万枚以上のセールスを記録。さらにシングルとアルバムが同時にアメリカとイギリスでポップチャート1位を記録するのは1983年のポリス以来の快挙、勿論女性では初の功績となった。しかし、そういう記録的なこともあるが、このアルバムで驚いたのは、R&Bやポップスだけでなく、ヒップホップやアラブ音楽の要素も含まれている。そういう意味ではとりわけロック音楽でだけでいえば、1978年のニューウェーヴの台頭から、オルタナティブを経て2四半世紀かかってロックが辿り着いた領域にビヨンセはたった1枚のアルバムで極め、それが世界的な支持を受けたという現実である。

"Naughty Girl"なんかはドナ・サマーを尊敬しているのか揶揄っているのか分からない、でもこれが新しい感覚などかもしれない。だって確実に言えることはひとつ、ドナのあの曲よりずっと良くって、しかも可能ならビヨンセにあの曲もリバイバルして欲しいと思ってしまうところ。エミネムにも感動したが、このビヨンセの作品にも色々な意味で衝撃を受けた。そう、逆に言えば、やっとインディーズだけでなく、メインにこういう感動できる音楽が出てきたのである。


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