音楽は語るなかれ

音楽に関する戯れ言です。

ベイビー・ワン・モア・タイム (ブリトニー・スピアーズ/1999年)

2012-09-29 | 女性ヴォーカル


世紀末、世界中に終末観が蔓延っていて、正直この一年は自分に取っても逆に後々印象の薄い一年だった。というか何事にも主体性を持つことを自身が阻んでいたのも事実で、その数年前に三回目の歳男を迎えた頃から、筆者は人生の大きな転換期にいた。そしてこれから少なくとも30年、特に仕事に関しては何をやっていこう、このままでいいのかも分からず仕舞いであったし、一方で将来に備えて色々な事をやってもいた。今も副業では生きている資格も取ったり、経済的な基盤は確立できたのかもしれないが、でもこの世紀末に向かっての何年かはどんな分野も混沌としていたに違いない。ロック音楽界でいえば、はっきりいって死にかけていたし、新しい息吹の兆候さえみられなかった。オルタナティブなロックもこの頃は収束気味で、結果的に2000年以降の復活を待つ時期でもあったし、オアシスに代表されるブリットポップも一時期の勢いはなくなっていた。勿論、個別には自己の主張を貫いているミュージシャンはいたが、それが少数派となってしまった。

ブリトニー・スピアーズはそんな、ポップ音楽全体が衰退しそうな雰囲気に「喝!」を入れることができたこの当時の唯一のミュージシャンであった。無論、その彼女が出てくる土壌はかなり整っていた。女性シンガーという括りでは、彼女より以前に、マライヤ・キャリーセリーヌ・ディオンの活躍、存在は大きかったし、なんといってもこの分野ではマドンナが大御所として控えていた。しかしそのマドンナもこの時代は一時的に求心力を失っていたし、マライヤは転換期から低迷期に入りつつあったし、セリーヌも代表作を連発した1997年を最後に音沙汰がなくなっていたのも事実。なので、余計にこのブリトニーのデビューは世界的にセンセーショナルに伝わった。特にこの作品のタイトル曲でもある"Baby One More Time"は様々なリミックスで何パターンも作られ、世界中のクラブで流された。このアルバムも全世界で3000万枚を売り尽くし、ティーンエイジャーのアルバム販売数においては今でも世界最高記録である(アルバム発表当時、ブリちゃんは17歳)。ブリトニーは元々ディズニー・チャンネルの「ミッキーマウス・クラブ」のオーディションに応募。最初は8歳という年齢だったために取り消されたが、11歳で再び応募して見事合格。所謂天才子役的な存在であったが、番組レギュラーでも認められ14歳でレコード会社と契約するに至っていた。この作品にはマックス・マーティンや、エリック・フォスター・ホワイトを始めとした当代の実力者9人がプロデュースに携わった程の期待度の高さであり、力のいれようは凄いのだが、かと言って、作品トータルバランスはきちんと保たれていて、その辺がポップ音楽の主流が完全にこのサウンドに移行することを展望、期待されていたに違いない。確かにこのブリトニーサウンドは自らの音楽活動に火を点けただけではなく、多くの若い女性アーティストが追随したし、またディズニー出身という新しい全米音楽シーンへの登竜門を作った。しかし、結果的にそのヒットと注目率があまりにも巨大だったために、意外に早い段階でロック音楽の返り討ちにあってしまう。

このデビュー盤であるが、恐ろしいことに現在殆どのミュージックショップで常設していない。まだ日本盤なら手に入りやすいが、輸入盤は店舗では無理で、ネットで取り寄せ待ちというのが多い。あのブリトニーにデビューアルバムなのに、である。個人的にはそんなに力をいれて聴くジャンルではないが、流石にこのアルバムの音楽性は高いし、1900年代最後を飾る作品としては十二分に楽しめる内容である。


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