稜線から逃れると
ダケカンバが新しい緑の芽を吹き
ミヤマザクラが下向きに
ひっそり咲いていた
独りの山歩きを
久しぶりに残念に思う
ダケカンバは雪の重みで道に迫り出していて
頭を何度も幹にぶつける
バランスが悪くなったので
つい足元が気になるのだ
動体視力も失せ
視野も狭くなっている
ぼくの生の中にはすでに衰えと
幾らかの死が混じっている
それが新緑を
薄紅色の花を
行く手の斜面の幾筋もの雪渓を
いっそう美しくしているのだ
ついさっきまで稜線では
直射日光が殴りつけるようだったが
ここは雪を渡る風が優しい
これからあの空の下の鞍部に
かすかに見える
小屋のところまで登って行かなければならない
はるか遠くに思えるが
ゆっくり歩いていけば案外近い
(これは天国の比喩ではない
そういうものを信じてはいない)
踏みしめる一歩があるだけだ
付記:最近の山ではなく、6月末のメモの再構成。先月末に膝を少し痛めて、山に行けていない。ほぼ治ったようだが、慎重に再開しないとまた痛める可能性がある。
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