すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

ピエタ

2017-07-06 10:08:50 | 読書の楽しみ
 大島真寿美という作家の、「ピエタ」という作品を読んだ。
 18世紀のヴェネチア、親に捨てられた孤児たちが育つピエタ慈善院の中の、音楽に優れた才能を持つ娘たちが学び演奏する付属音楽院で暮らす主人公エミーリアのもとにある日、かつてここで指導者をしていた作曲家アントニオ・ヴィヴァルディの訃報が届く。
 彼女は、現在は音楽院の指導者でもある友人アンナ・マリーア(実在の、著名なバイオリニスト)とともに、ヴィヴァルディの残したある楽譜を探しだそうと試み、その過程で様々な人に出会い、ヴェネチアというこの特異な町で生きるその人たちを通して、捨て子である自分の過去、生きる意味、この町の置かれた歴史的・将来的状況、音楽の喜び、などに思いをはせてゆく…というような話だ。
 この前に読んでいた「ボヴァリー夫人」さらにひとつ前にやはり再読していた「レ・ミゼラブル」と比べると、これは構成がかなり緩い、文体の緊張感もずっと緩い作品だ。
 緩いから、読みやすい、とも言える。(なんせ、レミゼもボヴァリーも読みやすくはない作品ですからね。) 一般的に言って、19世紀的大作に比べたら現今の作品はすごく読みやすくなっている、読みやすくなければ読んでもらえなくなっている、ともいえる。
 これは、文学にとって良いことではないかもしれない。
 それはともかく、大変気持ちよく読むことができた。続けてもう一度読んでもいい。ぼくは同じ本を、続けて、あるいは少し間を置いてもう一度読むことがかなりある。それは、ぼくがその作品を気に入った、良い作品だと思った、あるいは、もう一度丁寧に読み直す必要のある重要な作品だ、と思ったということだ。
 この作品には、音楽は実はあまり出てこない。最後の方に歌曲が一つ、あとは協奏曲「調和の霊感」が何度か出てくるぐらいだ。でも、その音楽は大変美しい使われ方をしている。
 音楽が美しい使われ方をしているのを読むのは喜びだ。
 詳しいストーリーとか説明とかを書くのはこれから読む人には興ざめだろうからしないが、機会があったら読んでみてください。
 ポプラ文庫です。
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