すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

復活

2020-03-08 10:20:53 | 
夜の雨ごとに
丘は少しずつ緑に傾いていく
昨日今日明日と続く
その変化が目に見えるわけではなく
しかし確実に何かが変わりつつあり
何かが来ようとしている

時が満ちれば大地はよみがえる
それは時が来るまで忘れられていただけで
しごく当然のことなのだが

その時が満ちるまでの
永い遠い 不安と恍惚の時

丘の頂に
年を経たコルク樫が一本
枝を半分枯らし
残りの半分で生きている
その根方に
麻袋をのせた木箱がひとつ
昨夜の雨に濡れたままおいてある

羊を飼う老人のように
ぼくはそこに腰を下ろし

風に目を細める
海からの風に焼かれ
沙漠からの風に削られた

褐色の皮膚のしみも窪んだ深い目も
ぼくはまだ持ってはいないが

海からの風は
雨の兆し
沙漠からの風は
晴れの兆し

やっと伸びはじめた草の中に
早くも花を咲かせようとしている
野生のニラの小さな六粒のつぼみ

はるか丘のふもとには
工場のコンクリートと鉄骨の残骸
その横に飛行場の跡
ひび割れた滑走路からも
芝草は芽吹き 伸び 広がり

その先はオリーブとオレンジの畑が
波うつ丘陵の向こうへ消えている

やがてユーカリの花が咲き
ミモザの花が咲き
野はいちめんの菜の花の黄に染まり

子供たちは手かごに
アザミの若芽を摘むだろう

そのあとふたたび過酷な季節が来ることを
ぼくは知っている
だが受け容れることができる

ぼくは何時 夕暮れに
杖にすがりつつ
戻る羊を数えるだろうか

(旧作)
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