冬枯れの高原から下るバスは
黄金の秋の中へ入って行く
カラマツに朝の陽光がきらめいて
君の昨日の言葉を借りれば
まるで恩寵のしるしのようだ
日陰にもう雪の残る
荒涼の散策路をたどりながら
谷を隔てた北方の山並
おそらく草津白根あたりの
鞍部のひとところだけ
重い雲の下に光る青空を指して
君はそう言ったのだ
そのほんの少し前 同じ空を見て
ぼくは世の終りか何かの
禍々しい予兆のように
感じたのだったが
フロントガラスの広い大型バスは
今日はぼくたちで貸し切りだ
いちばん前の席に並んで 動き出すとすぐ
感嘆の声を上げていた君は
ひと晩の眠りではまだ疲れが取れないのか
たちまちまたうとうとと眠ってしまった
君は気付かないが
恩寵の光が
君とぼくをも包んでいる
ゆっくり眠るがいい
ぼくの方が間違っていた
君が今 この柔らかな光の中で
安らいでいるのだから
世界はまだ
当分は終わらない