すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

秋山の・・・

2021-11-09 13:06:23 | 山歩き

 いつの間にか道は細く細く、かろうじて片方の靴の幅ほどになってしまった。急斜面の二次林の山腹をトラバースするようになり、急な登りではないがかなり危なっかしく、その細い道が所どころ谷側に踏み外したか踏み外しそうになったのか崩れていて、通過するのに緊張を強いられる。枯葉の積もった柔らかい斜面なので、転落したら木にぶつかって止まることは止まるだろうが、登り返そうとしたら大変な労力を強いられるだろう。骨折でもしたらなおさらだ。九月からひと月ほど続いた目まい以来、バランス感覚に自信がない。若い頃からバランスだけは人に負けないと思っていたのに、何たることか。そもそも、尾根道を歩いていたはずなのにこの状況になっているのは、バランスに自信がないから足元ばかりを注視していて、うっかり道を外したのかもしれない。
 いったいこれは登山道だろうか?けもの道だろうか?崩れた跡は登山靴のものではないと思われるが、けものの足跡も見当たらない。時々振り返って自分の通ってきた後を見てみても、道かどうかの見分けはつきにくい。ただ斜面にそれと見分けられるか否かの細い筋が付いているだけだ。この道を下りてくる人があったら、途中で「これは無理に進むべきではない」と考えて引き返すだろう。
 それにしても周りの景色は美しい。クヌギ・コナラ林だから紅い色には乏しいが、所どころ常緑樹の混じった黄葉の林は大好きだ。先日ブログに引用した「秋山の黄葉を茂み・・・」がつい心に浮かぶ。いやいや、こんな何でもない山でそんなに簡単にそっちに引かれてはもったいない。せめて奥日光ぐらいでなければ…
 そもそもこんな状況になっているのは、ちょっとした判断の安易さが原因だ。まず、上野原の駅で乗り換え時間がタイトだったので慌てて乗り込んだバスが間違えだったのだ。前日に行く先を確認していなかったのがいけない。同時刻に発車が2台あるとは思わなかったので、ちょうど来たバスに乗ったのだが、すぐ後にもう一台来た。「あれれ、あっちだったかな?」と思ったのだが、「まあいいや、予定外の道を歩くのも楽しいものさ。終点から適当に歩けば良いや」と思い、運転手さんに尋ねもしなかったのだ。
 終点の「井戸」バス停で降りた。持っていた2万5千分の一地図の右下隅ぎりぎりだ。生藤山に登るハイカー数人がいたが、へそ曲がりなぼくはそっちには行かず、山の中としてはひどく立派な舗装道路をさらに進み、どこか登れそうなところを見つけて山に入るつもりだった。ところが取り付けそうなところはなく、道は南西にどんどん下り、山からは遠ざかってゆく。ついで北西にゆっくり登り、ゴルフ場があり、道なりに北東に向かうとバス停からは3キロほどのところに、沢沿いに入る道が分かれ、「浅間峠・熊倉山」の小さな表示があった。
 歩いてきた広い道をさらに西に2キロほど進むと、トンネルを抜けて本来乗るはずだったバスの路線、降りるはずだったバス停に出るはずだが、今さらそれも馬鹿らしい。北に向かう道は地図では2キロ半ほど林道になっているが、その先には道がない。でも表示板があるのだから行けないはずはない。これこそ、手軽な冒険心をくすぐるお誂え向きの道ではないか。
 …と思ったのもまた間違い。林道の終点からは小さな谷にブルドーザーで開かれた道が始まり、両側の斜面は見渡す限り、切り倒されたまま四方八方を向いて放置された累々たるスギの無残な骸。間伐はしているのだしブルは入っているのだから最低限の管理はされているのだろうが、それにしてもこの荒れようは何だろう? コロナで管理が止まってしまったためか?
 ブル道が終わり、山腹をうねうね上る細い道。それでも青空が見えるから尾根はすぐだ。
 やっと尾根の上に出た。浅間峠にほど近い879mピークから南に延びる支尾根だろう。「馬頭観音」の表示がある。これで後は、気持ちの良い尾根道をたどるだけだ…
 だが道は深い落ち葉に埋もれて、その落ち葉がぐちゃぐちゃした土に混じって、海岸の砂地を歩いているように歩きにくい。目まいから後、観光旅行に走っていたので体が鈍っていて足取りが重い。馬頭観音はすぐのはずだがな、と思いながら足元に集中して歩いていたら、いつの間にか最初に書いた危うい道になっていた。
 支尾根に出てから40分ほどしてやっと目指す浅間尾根に出た。今来た道は、案の定、入り口に木を数本倒して塞いで、入りこまないようにしてある。今は廃道になっているのだ。浅間峠は尾根の北を巻いていけばすぐそこだ。結局、1h30の予定が倍の3時間かかってしまった。今日は浅間峠を出発点に北西に三頭山方面に向かう予定だったのだが、緊張でバテたのでここから秋川側に下山することにする。美しい秋の山を愛でながら、鼻歌を歌って。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする