映画の話ついでに、原作コミックの話などしてみます。
(これから読みたいと思っている人はご注意を)
私が「岳」を初めて読んだのは剱御前の小屋でのこと
2007年に立山から薬師岳まで縦走したときです。
あの年は梅雨明けが遅く、室堂から剱御前の小屋まで、雨の雷鳥沢を淡々と登りました。縦走初日で雨天、これ以上先に行く気も失せて、小屋の談話室に備え付けの本をあさってますと、「岳」の1~4巻があったのです。折しも剱岳で滑落事故との知らせが小屋に届き、ずいぶん生々しい記憶になっています。
その後しばらくして、コミックをまとめ買いして読みました。
ストーリーはおよそ1話完結、場合によって前後編の短編です。
いくつかのパターンがありまして
1.救助シリーズ
まさに三歩が遭難者を助ける活躍を描いたシリーズ。時に遭難者が助からず悲劇に終わることもしばしばですが、救助を待つ人、下界で待つ家族、救助隊員のそれぞれの心情を良く描いていると思います。また三歩がいろいろな場面でどのような選択、決断をするかも見どころです。命を取り留めた人がまた新たな気持ちで山を訪れるというのも良い場面です。
2.救助シリーズの亜流では、遭難して行方不明になった人を探し続ける三歩シリーズというのも時々出てきます。残された家族が行方不明者の変わり果てた姿にショックを受けながらも、そこに残された様々なメッセージに亡くなった人の思いをくみ取る、そんな描写がグッとくるところ。
3.レギュラーメンバーの過去や成長を描くシリーズ
はじめは久美ちゃんが救助隊員として成長する様が多かったですが、久美ちゃんも最近はベテランになってきて、成長物語は阿久津君がメインになっています。またナオ太、ザック、野田、谷村山荘のおばちゃん、牧さんと、それぞれにいろんな過去を持つ人たちの掛け合いが面白い。
4.山に何かを求めてくる人たちシリーズ
それぞれに町の生活で悩み、苦しみを抱える人たちが山に来て三歩と出会い、変化のきっかけをつかむというのもよく出てくるモチーフです。その人たちが背景に抱えるのは、失業、挫折、人間関係の悩みといろいろで、時に会社員であったり、画家や音楽を志す人であったり。そんな人たちに投げかける三歩の一言がいい味出してます。
作者の石塚さんは、このあたりの人間描写が持ち味です。
私自身は「山に登ったら何かが解決した」みたいな経験はないんですが、山の中では不思議と静かに物事が考えられる気はします。町でのごちゃごちゃしたことも、すべては自己責任という山の中に入ると、単純に見えてくるのかもしれませんね。