大リーグ史上最悪の出来事の一つに数えられる「ブラック・ソックス事件」とは一九一九年のワールドシリーズでの大掛かりな八百長事件である▼シカゴ・ホワイトソックスの選手が八百長に手を染めた背景は当時のオーナーのあまりのケチぶりにあったと伝わる。給料はもちろんジャージーのクリーニング代まで出し渋る。シーズン優勝すればボーナスを出すと約束しながら、実際にオーナーが差し出したのは気の抜けたシャンパンだけ。選手が八百長の報酬に心を動かしたのも分からないではない▼このオーナーはケチではなかった。大谷翔平選手がプレーするロサンゼルス・エンゼルスのアート・モレノ球団オーナー。このほど、同球団の売却を検討していると発表した▼父親が大の野球ファンだったそうだ。小さな広告会社から身を起こし、一代で巨大な資産を築き上げ、二〇〇三年、長年の夢をかなえ、球団を手に入れる。大リーグ初のメキシコ系オーナーだった▼「ファンこそオーナー」。ゲレーロ、コロン、ハミルトン。大物選手を気前よく獲得したばかりではない。球場のビールやグッズの価格を下げ、低料金の席も用意した。自身もオーナー席ではなく一般席でファンと声援を送っていた。評価は分かれるが野球とチームを愛した人だろう▼最近のチームの不振と観客減が夢を手放す理由か。さて、大谷はどうなる。
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