東京新聞寄居専売所

読んで納得!価格で満足!
家計の負担を減らしましょう!
1ヶ月月極2950円です!
アルバイト大募集中です!

今日の筆洗

2020年07月05日 | Weblog
 七十二候の「半夏生(はんげしょう)」。今年は先週の一日だった。「半夏」とは植物のカラスビシャクのことで、それが生える季節だから半夏生▼今の時代、「半夏生」といってもあまり気に留めないが、その日をめぐる、いろいろな言い伝えが残る。大阪では半夏生にタコを食べると一年を無事に過ごせると伝わるそうだ。福井ではサバを食べるらしい▼雨にまつわる話もある。「半夏雨」。梅雨の後半にあたる半夏生のころに降る雨は大雨になりやすい。西日本では、その雨による洪水を「半夏水」と呼んで警戒するそうだ▼不吉な言い伝えなぞ当たってほしくなかった。そんな思いで、すさまじい濁流の映像を見詰める。梅雨前線と低気圧の影響によって九州地方は記録的な大雨となり、熊本県の球磨川が氾濫した。土砂災害も発生しており、犠牲者が出ている。現地が心配である▼新型コロナウイルスの不安が消えぬどころか、第二波を警戒する中で今度は無情の大雨とはやりきれない。避難先でもコロナ対策が必要とは心も身体も落ち着くまい。自然災害も今年くらいは見逃してくれぬものかとうめきたくなる▼この雨、しばらくは警戒が必要という。熊本県球磨村の神瀬(こうのせ)鍾乳洞にはこんな伝説がある。鍾乳洞にすんでいるイワツバメが夕方に群れて中から飛び出てくれば、その翌日は晴天になるそうだ。夕方の群れを祈るばかりである。
半夏生

 


今日の筆洗

2020年07月04日 | Weblog

 静かに広がった小さな傷が、丈夫そうな器を壊してしまうことがあるらしい。見えないひびが走る花瓶を人の心に重ねた詩が、ノーベル文学賞の初代受賞者でもあるフランスの詩人プリュドムの代表作にある▼<人の目にはいつも無疵(むきず)に見えていても/ほそいけど深いその傷はふえてきて/低い声で泣いているのがわかるの/そこに触らないでね、壊れているのよ>(『こわれた花瓶』)。見えない傷がたくさん走っていないか。花瓶に限らず、心するべき時があるだろう▼一昨日の百七人に続いて、昨日の百二十四人。これほど広がっていたのかと、首都で新たに確認された新型コロナウイルス感染の人数に、驚いた方も多いはずだ。街に昔の景色が、かなり戻ってきたように見えていたその背後で、見えないひびが走るように、感染は広がっていたようである▼無症状も多いという若者の割合が高い。想像を超えて感染が広がる一因だろう。夜の繁華街が、感染拡大の場所になっている。業種をしぼった対策の要請などが必要か。経済再開を急ぎすぎてはいけないと求められているようにも思える▼病気というものは、<早く治せんとして、いそげば、かへつて、あやまりて病をます>。江戸期の儒者、貝原益軒の『養生訓』にもそんな言葉がある▼ウイルス禍の社会もそうだろう。傷ついた器を壊さないよう用心する時のようだ。


今日の筆洗

2020年07月02日 | Weblog

 「ねえ、こんなにたくさん、どうするの?」。冷蔵庫の脇にしまい込まれていた大量の紙袋を見つけた娘が老いた母親に尋ねる。母親が面倒くさそうに答える。「なにかのときにないと、困るからさあ…」。是枝裕和監督の「歩いても歩いても」(二〇〇八年)にそんな場面があった▼決めつける気はないが、母親というものはなんでも大切にとっておきたがる傾向があるのか。紙袋、包装紙、リボン…。もったいないからまだ使えるからとしまい込む▼知り合いが、亡くなった母親の家を片付けていてびっくりするほど大量のレジ袋を発見したそうだ。あきれると同時になんだか申し訳ない気分になったと言っていたが、よく分かる▼スーパーやコンビニなどでレジ袋の有料化が始まった。映画では紙袋だったが、あの母親なら「ほら、とっておいてよかったじゃない」と言うだろう。無料だったレジ袋に数円かかる。むざむざ支払うのはやはりシャクである▼有料化でレジ袋の量を減らし、プラスチックごみによる海洋汚染を防ぐ試みである。レジ袋が消えるわけではなく、汚染防止にどこまで効果があるのか分からぬが、これでプラスチックごみを減らす意識が高まればよい▼もったいないのでマイバッグを使いたい。もったいないのはレジ袋に数円を払うこと。それにかけがえのない海をプラスチックごみで汚すことである。


今日の筆洗

2020年07月01日 | Weblog
そこには三人の帝がいた。南海の帝、北海の帝、中央の帝。中央の帝の名前は「渾沌(こんとん)」である。「渾沌」には目、耳、口、鼻の七つの穴がなかった▼「渾沌」はときどきやって来る二人の帝をよくもてなしたので、二人の帝はなにかお礼をしたいと考えた。二人は「渾沌」にも自分たちと同じ七つの穴を与えようと一日に一つずつ穴を開けていった。七日目。穴を開けられた帝は息絶えた。「荘子」の有名な「渾沌七竅(しちきょう)に死す」である▼この場合の穴とは自分たちと同じ秩序やルールと解釈できるだろう。「渾沌」をそのままにしておけばよかったが、自分たちの秩序を押しつけた結果、図らずも、その命を奪ってしまった▼そして今、無残にも穴を開けられようとしているのは、香港であろう。中国の全国人民代表大会(全人代)常務委員会は昨日、「香港国家安全維持法」案を異例のスピード審議で可決した▼可決によって中国政府による香港での反体制運動の取り締まりは極めて厳しくなるだろう。香港に対し、高度な自治を認めてきた「一国二制度」は事実上消える。香港住民の意思に反し、中国本土と同じ「顔」に無理やり変える乱暴な手術が心配である▼「渾沌」は無秩序やカオスを意味する「混沌」の語源と関係があるそうだが、国際社会が反対する中国の強引なやり方は香港情勢をかえって混沌とさせる危険さえある。