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今日の筆洗

2017年12月23日 | Weblog

 <♪空気はワインのように澄み、松の香は鐘の音とともに黄昏(たそがれ)どきの風にのる…黄金のエルサレムよ…>。「黄金のエルサレム」は、イスラエルの第二の国歌ともいわれる歌だ▼一九六七年にイスラエルの十九回目の建国記念日を祝うためにつくられ、その年の第三次中東戦争でエルサレムを手中に収めたイスラエル軍の兵士らは、ユダヤの聖地「嘆きの壁」でこの歌をうたったという▼だが、この歌は論議も呼んだ。<♪井戸や泉は枯れ、街道には人けもない>と無人の街のように描いているが、そこにはパレスチナの人々の暮らしがあるではないか、彼らの姿が見えぬのか、と批判が出たのだ▼「黄金のエルサレム」が歌い継がれて半世紀。松の香漂う街に今あるのは、きなくささだろう。中東和平の仲介者を任ずるはずの米政府が「エルサレムはイスラエルの首都」と宣言したため、死者が出る事態となった▼米国に方針撤回を求める決議が国連総会で採択されそうになるとトランプ政権は、賛成する国への援助や国連への資金供出を見直す構えを見せて脅した。「黄金」ならぬ「銭金のエルサレム」である▼イスラエルの新聞によると、「黄金の…」の歌詞をパレスチナの人々も受け入れられるように改めて、ともに歌い継ごうという動きもあったそうだ。国際社会が伴奏すべきは、そういう「黄金のエルサレム」だろう。

黄金のエルサレム



今日の筆洗

2017年12月22日 | Weblog

 わが国のモグラ界には、二大勢力がある。東のアズマモグラと、西のコウベモグラ。もともとはアズマモグラが東から西まで縄張りにしていたが、一回り大きなコウベモグラに西から押され、今は国土を二分しているという▼富山大学の横畑泰志教授によると、そんなモグラ界の勢力図の境は、日本アルプスなどの山塊が連なる中部地方だ▼平地の生存競争では劣勢なアズマモグラが、小さな体格が有利に働く山岳戦で踏ん張り、何とかコウベモグラの東進を防いでいる。日本アルプスの山々や谷は、トンネル掘りの小さな名人たちの縄張り争いの前線なのだ▼そういう山岳地帯をも貫くトンネルを掘り、東西を時速五百キロで結ぶリニア。総事業費九兆円の巨大事業ともなれば、人間界のトンネル掘り名人たちも、受注をめぐって激しく縄張り争いをしそうなものだが、そうはならぬらしい▼東京地検や公正取引委員会によって、大手ゼネコンがリニア工事をめぐり談合をしていた実態が浮かびつつある。余計な縄張り争いを避けて共存を図ると言えば聞こえはいいが、談合で工費が高くなるツケは結局、私たちに回ってくる▼ゼネコンは十二年前に「談合決別宣言」をしたが、その後も繰り返し談合の存在が指摘されてきた。叩(たた)かれても叩かれても、巧みに抜け穴を掘ってまた顔を出す。この国で最もしぶといモグラかもしれぬ。



今日の筆洗

2017年12月21日 | Weblog

<神の座の右に坐(ざ)したまふといふことのしみじみと沁(し)む裁きを終へて>は、十八年間にわたり最高裁判事を務めた入江俊郎氏の歌▼神ならぬ身で、人を裁く。その重みを、入江氏は繰り返しうたった。戦後最大の冤罪(えんざい)事件といわれた「松川事件」の審理にあたった時には、こんな歌を残している。<うづ高きこの記録はや罪なしと決めてまた繰る手ずれし記録を>▼有罪か無罪かを決めてなお、本当にそれでいいのかと証拠に向き合う。そういう謙虚さが司法にしかと根付いていれば、この「事件」はまったく違った展開になっていたのではないか。そう思わせるのが、きのう大阪高裁が再審開始を決定した一件だ▼滋賀の病院で重篤な患者が死亡した。警察は事件とみて調べ始めたが、確証は出ない。謙虚に「自然死かも」と調べることもないまま捜査を突き進め、看護助手の西山美香さんが殺人で有罪とされた▼彼女の自白はころころ変わり、本人が知るはずもなかったことまで、突然供述し始めた不自然さ。その不自然さを看過した裁判所。大阪高裁が捜査当局による「供述の誘導」の可能性を指摘し、裁判やり直しを命じたのも当然だろう▼<人が人を裁く懼(おそ)れは知らざるにあらず殺人の記録また繰る>も、入江氏の歌。そういう懼れを司法が軽んずれば、誰もが冤罪の犠牲者となりうる恐れが、不気味にふくらむだけだ。


今日の筆洗

2017年12月20日 | Weblog

「古寺巡礼」などの哲学者、和辻哲郎(一八八九~一九六〇年)が一九二三年の関東大震災について興味深いことを書いている。震災前から近い将来、関東で大地震が起こると信じていたというのである▼その危険に、自宅の地盤の弱さが不安になってくる。二階の蔵書の重さが気になってくる。では、和辻は大地震にどう備えたか。結局、何もしなかった。その理由をこう書いている。「なんとなく、そういう異変が自分に縁遠いものとして感ぜられた」-▼実際の震災では家屋の倒壊こそ免れたが、その備えのなさに肝を冷やしたことだろう。その轍(てつ)を踏みたくない最新の予測が出た。政府の地震調査委員会は昨日、北海道東部沖の太平洋でマグニチュード(M)9級の超巨大地震の発生が「切迫している可能性が高い」との予測を公表した▼「切迫」という表現に過去の大震災の映像が浮かび、胸がざわつく。当該地の不安はいかばかりか▼さて、ここからが闘いである。長い闘いになるかもしれぬ。政府、自治体はもちろんのこと、住民それぞれが超大型地震への対策を急がねばならない▼もうひとつは自分の心との闘いだろう。和辻によれば、危険と告げられても、「人々はできるだけそれを考えまいとする」「自分の欲せぬことを信じたがらぬ」ものらしい。疑いや楽観を封じ込め、警戒し続ける。つらい闘いになる。


今日の筆洗

2017年12月19日 | Weblog

「出来のよくないものをお客さんに見せるほうが(台本が)遅れることよりもよくない」。原稿の遅さで有名な劇作家の井上ひさしさん。ある芝居で井上さんの台本が遅れてしまい、初日に間に合わなかった。怒る劇場支配人にこう反論したそうだ▼井上さんは「遅筆堂」。もう一人の筆の遅い脚本家はペンネームをからかってか、こんなあだ名があった。「遅坂(おそざか)」。「天下御免」「夢千代日記」などの早坂暁(はやさかあきら)さんが亡くなった。八十八歳▼「天下御免」の源内(山口崇)さんや右京(林隆三)さんの顔が浮かぶ方もいるだろう。もう一度見たい名作だが、ビデオが高価な時代で重ね録(ど)りしてしまい、NHKにも残っていないと聞く。残念▼「夢千代日記」の夢千代(吉永小百合)は胎内被爆者である。早坂さん自身、原爆投下直後の広島を目撃している。そのむごたらしさをどう描くか。作家としての原点だったが、滑るように書けるものではなかっただろう▼祈り。怒り。人間とは何か。行きつ戻りつ、書いては直しの刻むような筆であったに違いない。「遅坂」の名は作品とぎりぎりまで格闘した証しである▼「夢千代」が現在放送されたなら視聴率はどうだろう。奇抜な筋、派手な演出とは無縁のドラマは今の時代には苦戦するか。静かに深く人を描く。落ち着いたドラマが茶の間にあった時代の良き脚本家との別れが寂しい。


今日の筆洗

2017年12月18日 | Weblog

 師走の忙しい時期に気が引けるのだが、ナゾナゾを一問。問「セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン。この中で笑ったり、泣いたり、怒ったりするのはどれでしょうか」。おなじみのコンビニエンスストアの名前だが、泣く、笑う、怒るって?▼答えは「ローソン」だそうだ。そのココロは三店の中で唯一、人間=人の名前を持っているからというのがオチ。ローソンの店名の元は米国人のJ・J・ローソンさん。一九三〇年代、米オハイオ州で牛乳を売っていたお店がローソンの始まりと聞く。そういえば、お店で見かける、青い看板の中にもミルク缶がある▼「人間はどれ」を問う、このナゾナゾもますます分かりにくくなる話題である。その人間の名を持つローソンが早朝、深夜に限って、接客従業員がいない「無人店」を来春、首都圏にオープンさせるという▼自分のスマートフォンで商品のバーコードを読み取ることで精算するそうだ。人手不足や人工知能の進歩によって無人店は増えていくだろう▼ローソンの名は短く、短歌や俳句に使いやすい。<砂漠で見る幻のごとローソンの青き看板灯(とも)りていたり>は、笹公人さん(歌集『念力ろまん』収録)▼孤独という砂漠の中でやっとたどり着いた、その店からもやがて人はいなくなる。ミルク売りのローソンさんが予想もしなかっただろう時代がやってくる。


今日の筆洗

2017年12月16日 | Weblog

 世界で最も裕福な八人と、世界の経済的に恵まれていない方の三十六億人の資産額はほぼ同じ、との試算がある。何とも極端な富の偏在だが、その八人の一人ウォーレン・バフェット氏(87)がかつて、「大金持ちを甘やかすな」と主張したことがある▼「わが国の指導者たちは“犠牲を分かち合おう”と言うくせに、私には、それを求めない。投資で年収が五十億円もある私に課せられる税率が、一般の労働者より、かなり低いのだ。もっと富裕層に課税せよ」と提言したのだ▼超のつく富豪が「もっと税負担を」と言いだすほど米国の税制はいびつらしいが、わが国はどうだろうか▼この国の税制も、米国に負けず劣らず、富裕層にはやさしいらしい。株式の配当や売却益にかかる税率を5%上げただけで数千億円もの税収増につながるという試算もあるのに、今回の税制改正では論議の的にもならなかったという▼年収八百五十万円超の会社員らの勤労所得を増税の的に九百億円の税収増を見込みつつ、株高で潤い年収二億円を超すような超富裕層が優遇される現状は、手つかず。これで「犠牲を分かち合う」ことになるのだろうか▼いや、そもそもこれほどの増税の方針をなぜ総選挙の時にきちんと示さなかったのか。これらの問いを突き詰めなければ、バフェット氏に、こう叱咤(しった)されるかもしれぬ。「政治家を甘やかすな」