一本の安打は一本の安打にすぎない。されど、その一本にはどれほどの思いや願いが込められていたことか▼カブスのベテラン左腕が投げ込んだカットボールをあざやかにセンター前へと弾(はじ)き返した。ピッツバーグ・パイレーツのギフト・ヌゴペイ内野手(27)。南アフリカ出身の選手として先週、初めて大リーグの試合に出場し、初安打を記録した。アフリカ大陸による初安打である▼「十歳のときから、この日が来るのを夢見ていた」。こらえきれずに涙ぐんだが、無理もない、ここまでの困難な道程である▼少年時代は野球場で暮らしていた。それほどまでに猛練習をしたという比喩ではない。苦しい生活。母親は地元の野球チームの料理人の仕事を見つけ、一家で野球場内の小さな部屋で生活していたそうである。南アフリカで野球の人気はさほどでもないが、少年が野球と出会った事情もここにある▼欧州駐在のスカウトに見いだされ、米球界入りしたが、なかなか芽が出ず、大リーグ昇格までは約十年かかった。その長い日々が、あの一本の安打の裏にある▼初安打に地元ヨハネスブルクは大騒ぎという。一九九四年、アパルトヘイト廃止後、初の総選挙が行われたことを祝う、「自由の日」の時期とも重なった。あの野球場のお母さんは残念ながら、その歴史的な一本の安打を見ていない。二〇一三年に亡くなっている。
CHC@PIT: Ngoepe singles to tally first career hit
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