東京新聞寄居専売所

読んで納得!価格で満足!
家計の負担を減らしましょう!
1ヶ月月極2950円です!
アルバイト大募集中です!

今日の筆洗

2023年03月01日 | Weblog
吉野弘さんの詩、「漢字喜遊曲」にこんな一節がある。<器の中の/哭。/割れる器の嘆声か>▼【器】の筆が15%ほど足りぬと慟哭(どうこく)の【哭】となるか。二つの似て非なる漢字が浮かんだ。大阪市で聴覚支援学校に通っていた十一歳の女の子が重機にはねられ、亡くなった事故をめぐる裁判である▼焦点は逸失利益の算定だった。女の子が生きていれば将来得られたはずのお金のことで遺族は健常者と同じ水準の金額を求めたのに対して、運転手側は聴覚障害者であることを踏まえ、平均賃金の「六割」と主張していた▼判決が示した女の子の逸失利益は平均賃金の「85%」だった。六割や二〇一八年の聴覚障害者の平均収入よりも高く、女の子に勉強や他者と関わる意欲があったことなどを認めての判断である▼女の子のかつての「がんばり」。それが評価された数字にも遺族の疑問は消えぬ。なぜ85%か。なぜ健常者と同じではないのか。女の子の将来が詰まっていたはずの【器】。判決はなお15%足らない、悲しみの【哭】なのだろう。難しい問題である▼判決の「15%」の意味が聴覚障害者の就労の難しさだとすれば、せめて、社会全体でこれを埋めていく努力をしたい。就労支援や意思疎通を助ける技術革新をさらに進め、働くことへの聴覚障害の影響を、限りなく小さくしていく。<割れる器の嘆声か>。嘆声を消したい。
 
 

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿