今日の筆洗

 六歳の女の子が何かを一生懸命に書いていた。「それは何なの？」。おばあさんがこう尋ねると、女の子は大声で答えた。「ウィッシュリスト！」▼いい子にしていたのでこんなプレゼントがほしいというサンタクロースにあてた手紙。オチがある。インターナショナルスクールの幼稚園に通うその子の発音がよほど良かったのだろう。聞き取れなかったおばあさん、驚いて「ウォシュレットだって！」▼友人がうれしそうに教えてくれた。こちらも笑う。家族の中に起きた明るい出来事や温かい語らいは一年も終わりに近い季節には似合うものだ。こちらも温まる▼この季節に似合わぬ事件である。ベルリンのクリスマス市（マーケット）に大型トラックは突っ込んだ。トラックは買い物客を次々とはね飛ばし、少なくとも十二人が死亡した▼トラック前面にモミの木が刺さっている。現場近くの教会のツリーをトラックがなぎ倒した。事件さえなければ、人びとはそれを見て一年を思い、笑い、語り合うはずだったツリーであろう。テロの可能性があるという。安らぎの季節、場所が標的とされたか。クリスマスを憎み台無しにしたいとたくらむ絵本の「グリンチ」を連想してしまう▼あの怪物は最後、クリスマスが大好きになったはずだ。深い憎悪を忘れさせたものは何だったか。事件の深刻さに今はそれさえ思い出せない。