テレビドラマ『ふぞろいの林檎(りんご)たち』などの演出家で作家の鴨下信一さんが昭和の歌謡曲、流行歌にはどんな色がよく登場するかを調べたことがあるそうだ▼戦時中から終戦直後の歌にかなりの頻度で出てくる色があった。「青」だという。なんとなく想像できる。つらい時代にあって、人びとは歌にだけは明るい青を求めていたのかもしれない▼松田聖子さんの「青い珊瑚礁」などの作詞家、三浦徳子(よしこ)さんが亡くなった。74歳。数々のヒット曲を思い返せば、この人も、時代の「色」を強く意識していらっしゃったことがよく分かる▼三浦さんの色は終戦直後のような青のひと色ではない。松田聖子さんの「青い珊瑚礁」の詞を読む。<青い風切って走れ>の青。<うつむき加減のLittle Rose>で、バラ色を想起させ、果ては<渚は恋のモスグリーン>。その詞のパレットの絵の具は実に多彩で、複雑である▼やはり、松田さんの「チェリーブラッサム」にこんな詞がある。<自由な線 自由な色>-。振り返れば、三浦さんのほとばしるような<自由な色>は、快活でなお続く経済成長に自信にあふれる一方、少々浮ついた1980年代の日本の空気まで描いていたのだろう▼「みずいろの雨」「夏色のナンシー」。時代を彩った数々の「色」と、その作詞家を「風は秋色」の季節に見送る。カセットテープが恋しい。