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今日の筆洗

2021年02月27日 | Weblog
 とびきりの悪党や憎らしい敵役が、意外にも命懸けで誰かを救おうとする善人であった。人形浄瑠璃や歌舞伎で、本当の姿が明らかになることやその演技を「もどり」という▼「鮓屋(すしや)」の無法者「いがみの権太」は、実は改心していて、平家の武将を救う。「摂州合邦辻(せっしゅうがっぽうがつじ)」の玉手御前は恋する男に毒を飲ませた悪人と思わせながら、命を捨てて男を助けた。切なさが込み上げる名場面の源泉が「もどり」だろう▼こんな人だったのかと驚き、「もどり」を思い浮かべた。昭和のプロレス界で大暴れした悪役タイガー・ジェット・シンさんである。東日本大震災で被災した児童への支援などにより、運営する財団が、カナダで日本総領事から表彰を受けたそうだ▼サーベルを手にリングの外も荒らしていたのを覚えている。のどをつかむ得意技。あれはたぶん反則だが、連発していた。当然ながら悪役と悪人は違う。分かってはいても、子どもごころに怖かった▼調べると、プロレスで成功した後、長く慈善活動を続けている。ファンには有名らしいが、かなりの規模と熱心さである。実はこちらが本当の姿だった。日本への強い思いも語っている▼「もどり」の芝居では、善の心がのぞくのを「底を割る」と言うそうだ。見せないのが極意らしい。まったく底を割らない暴れ方であったから、じわりと込み上げるものがあるのも当然か。