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今日の筆洗

2021年02月10日 | Weblog

 贋作(がんさく)と知った上で、作品を展示している美術館がオランダにある。作品は十七世紀の画家フェルメールの「エマオの晩餐(ばんさん)」である▼発見されたのは一九三七年。鑑定の結果、キャンバス、絵の具ともに十七世紀のものと分かった。専門家は太鼓判を押し、美術館は大金を支払った▼贋作だった。描いたのはメーヘレンという無名の画家で、この男、戦争中に別のフェルメール作品をナチスに売ったことをとがめられ、逮捕されたのだが、取り調べにこんな告白をする。ナチスに売ったのは贋作であり、「エマオの晩餐」も自分が描いたと。十七世紀の価値のない絵の表面を削って、その上に描き、仕上げにオーブンであぶり、古く見せていた▼ナチスをだました画家として国民から英雄扱いされたそうだが、この偽作事件に送られる拍手はあるまい。平山郁夫や東山魁夷らの絵画を基にした版画の偽作が市場に流通していることが分かり、警視庁が捜査している▼大阪の画商が奈良の工房経営者に作らせていたものらしい。百貨店でも扱っていたとは、よほど巧みな偽作か。褒めている場合ではなく、気の毒なのはまんまとだまされた人である▼あの美術館が今も「エマオの晩餐」をメーヘレンの作として展示しているのは二度とだまされまいという戒めのためだそうだ。絵を扱う方は心のどこかに、その絵を飾っておいた方がいい。