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今日の筆洗

2020年08月21日 | Weblog
 永井荷風は『断腸亭日乗』などの日記で、日々の晴雨、寒暖を何年にもわたって律義に書きそえた。毎夏、暑さに参っているとおぼしき表現が出てくる。耐えがたさに応じたような言葉遣いが面白い▼湿度の高さを言う時は、<南風烈(はげ)しく溽暑(じょくしょ)堪えがたし>。盛夏には<炎暑燃るがごとし>などとあって、「炎熱」「蒸暑(じょうしょ)」「残暑」「酷暑」などが登場する。寒暖計の値もたびたび書いた。最大級の暑さだろう。<酷暑退かず>の日は<華氏(かし)九十五度>とある。セ氏では、三五度だ▼文人の語彙(ごい)に連日のこの暑さを表す言葉は残っているであろうか。昨日も暑かった。三九度超えの滋賀県東近江市をはじめ、本州、九州で最高気温三八度超が相次いでいる。何と呼ぼうか、従来の言葉のものさしで間に合わないような暑さだろう▼二段重ねの状態となった高気圧の影響に加え、先日はフェーン現象も起きたらしい。何重もの耐えがたさの中でマスクも必要だ。異例の危険な暑さが続く▼<暑い。まるで粥(かゆ)につかったようである>。ベトナムを舞台にした開高健の『輝ける闇』にそんな一節があった。「粥暑(しゅくしょ)」か。炎天下に新表現を考えたが、暑さが増したように思えてしまった▼地域によって週末には暑さがゆるむという予報もある中、あさっては「処暑」である。暑さが峠を越える時期だ。油断できないが、ひと息つける日々を願う。