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今日の筆洗

2020年08月07日 | Weblog
 緑豊かな山と穏やかな海の間で、白いビル群が地中海の強い日差しを浴びている。中東も舞台になった山崎豊子さんの長編小説『不毛地帯』に街の描写がある。<果しない土漠(どばく)から来た人々にとって、海の色、緑の樹々、洒落れた建物一つ一つが、心の乾きを癒(いや)す“パリ”であった>。中東のパリと呼ばれていたベイルートの姿である▼描かれているのは一九七〇年代前半のたたずまいだろう。七五年に始まるレバノン内戦、さらにイスラエル軍進攻などで街は廃虚となる。復興なったとされる今世紀も、イスラエルの空爆があり、元首相が爆発物で殺害されたテロも起きた▼「心の乾き」を癒やした景色に破壊の傷痕が絶えることのなかった長い歳月だろう。新しい傷が刻まれる事態が起きてしまった。港で起きた大規模爆発である▼百人以上が亡くなり、行方不明者の捜索が続く。すさまじい衝撃波と荒れ果てた市街地の映像は世界中の人を震え上がらせたはずだ▼原因究明はこれからだが、市中心部近くの倉庫には、危険な化学物質が数年前からあったという。懸念の声があったが、当局は動かなかったとも中東からの報道は伝えている。混乱の中で行政や政治の荒廃までが進んでいたのか。市民から批判の声が、上がっているそうだ▼風雪に耐えるレバノン杉を思い浮かべる。またも悲惨な出来事に襲われた美しい街である。