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今日の筆洗

2024年09月14日 | Weblog

作家、登山家の深田久弥は著書『日本百名山』で富士山について「おそらくこれほど多く語られ、歌われ、描かれた山は、世界にもないだろう」と書いている▼老いも若きも男も女も、あらゆる階級、職業の人々が登る。子どもの時から富士の歌を歌う▼どんな山にも一癖あるものだが、富士は東西南北どこから見ても美しく整っており、ただ単純で大きいとして深田はそれを「偉大なる通俗」と呼んだ。大きな単純は万人向きで、何人をも拒まぬ代わりに何人も究極の真理をつかみあぐねる。幼い子も富士の絵を描くが、その真の表現には画壇の巨匠もてこずる▼本来は万人を拒まぬ山だが、安全のためには制限もやむを得ないのだろう。静岡県が、条例による登山の規制や入山料(通行料)徴収を来年の夏山シーズンから導入することを検討している▼今年の夏山シーズンは終わったが、山梨県が通行料徴収や夜間の入山制限などを始めたところ、夜通しで一気に登頂する「弾丸登山」が減ったそうだ。これら無理な登山は外国人観光客らにみられるが、遭難にもつながる。静岡が足並みをそろえるのも自然な成り行きだろう▼深田はこうも書いた。「富士山は万人の摂取に任せて、しかも何者にも許さない何物かをそなえて、永久に大きくそびえている」。何者にも許さない何物かをそなえた厳しい山である。なめてはいけない。


今日の筆洗

2024年09月13日 | Weblog
 1996年12月、在ペルーの日本大使公邸を占拠した左翼ゲリラグループは収監中の仲間の大量釈放を訴え、フジモリ大統領との対話も要求したが、大統領は拒んだ▼先方は、大統領が現場に来なければ人質の殺害を始めると通告したが、国のトップと同等の地位をテロリストに与えられないと考えたそうだ▼ゲリラのリーダーに関して「あいつはどんなひどいことでもできる男です」との忠告もあった。大統領はひるまず「ほえる犬はかまないものだ」と周囲に言ったという。肝の据わり方は特筆に値する▼日系人のフジモリ氏が亡くなった。大統領時代に経済を立て直し、ゲリラ摘発で治安を改善したとされるが、強権的な政治は強い反発を招いた。日本で事実上の亡命生活を送ったり、在任中の軍の市民虐殺に絡んでペルーで服役したり。功罪は相半ばした▼大使公邸の事件は発生から4カ月後、極秘に掘った地下トンネルから軍特殊部隊が突入。日本人などの人質72人は、犠牲になったペルー人1人を除き救出された。フジモリ氏は作戦成功を信じつつ、不測の事態で多くの犠牲者を生んで政権が崩壊することも想像したそうだ。解決後、突入準備に関わった士官からも「トンネルは地獄への道のように思えた」と本音を聞かされたという▼起伏が激しく先の予測が困難で、称賛も罵声も浴びた人生。魂は今、安らかだろうか。
 
 

 


今日の筆洗

2024年09月12日 | Weblog
 米大統領選挙の候補者によるテレビ討論の出来というのはその後の支持率とはあまり関係がないそうだ▼もちろん例外はある。2008年、民主党のオバマ氏は共和党のマケイン氏との討論会後、急速に支持を伸ばし、最終的に当選したが、最近は討論会後に支持率が劇的に変化することはないという▼今回はどうだろう。民主党のハリス副大統領と共和党のトランプ前大統領の初顔合わせとなったテレビ討論会。ここまでの支持率は互角かハリス氏がわずかにリードというところか▼討論会の出来だけでいえば、ハリス氏に軍配を上げる方が多そうだ。トランプ氏のうそやほころびを丹念に突き、世代交代や団結を訴える姿勢は効果的だったかもしれぬ。口八丁のトランプ氏が受け身に回る場面もあった▼討論会後に支持率がさほど変わらない理由は誰に投票するかを有権者は既に決めており、その候補が討論会でたとえ打ちのめされたとしても支持し続けることにあるようだ。分断の時代。おいそれとは支持先は変わらない▼トランプさんもそれが分かっている。移民問題などで相も変わらぬ差別的な発言を展開した。新たな支持の拡大より、こうした発言で自分のファンを喜ばせ、支持層をさらに固めるのが狙いだろう。大統領選挙まで2カ月を切った。今後数週間の支持率の変化が気になる。ハリス氏は新たな例外となれるか。
 
 

 


今日の筆洗

2024年09月11日 | Weblog
「一石日和(いちこくびより)」とは雨が降るような降らないような定まらない天気のことをいうそうだ▼その昔、筑紫(福岡県)でそんな天気を「降るごと(如)降るまいごと(如)」といった。如(五斗)が二つ。尺貫法で合わせて「一石」というしゃれらしい▼「黒い雨」は降ったのか降らなかったのか。長崎原爆の被害を巡る新たな司法判断が出た。長崎地裁は国が定めた援護対象区域の外にある長崎市東部でも放射性物質を含む「黒い雨」が降ったと認定し、15人を被爆者と認めた。これまでは被爆者ではなく「被爆体験者」とされ、医療費など国からの支援も限られていた人々である▼援護対象区域外で「黒い雨」を浴びた住民らを被爆者と認めた判断は初めてだが、東部以外の地域にいた29人の訴えは退けられた▼29人がいた地域では放射性降下物が降った的確な証拠がないという。広島原爆を巡る広島高裁判決では黒い雨を直接浴びずとも内部被ばくの可能性があれば被爆者に該当するとしたが、これとは異なる判断で被爆者と認めるには「黒い雨」が降ったという立証が必要という姿勢を崩さなかった。同じ原爆被害でも広島と長崎で認定に差があるのは原告団には納得できまい▼降ったのか降らなかったのか、はっきりしない雨。疑わしきは救済をという訴えに別の雨が降るか。「空知らぬ雨」。空と関係ない雨とは涙のことをいう。
 
 

 


今日の筆洗

2024年09月10日 | Weblog
「遼」とは遠い距離を意味する。「広い視野と心を持ってほしい」。ご両親はそう願い、その名を選んだそうだ。囲碁の一力遼天元である▼国際棋戦「応氏杯世界選手権」で初優勝を決めた。主要な国際棋戦での日本勢の優勝は19年ぶり。日本のファンが長く待った快挙である▼「遼」という遠い道を想像する。平坦(へいたん)な道ではなかっただろう。2013年、勝てば最年少でのリーグ戦入りとなる名人戦最終予選決勝。優勢にみえたが、逆転を許し、「3目半負け」。「これほど辛(つら)い負けは経験したことがなかった」という▼七大タイトルを2度独占した、井山裕太三冠に歯が立たなかった時期もある。10を超える連敗。「よい選手になるには何百回と負けなければならない」。かつてのチェス世界チャンピオン、キューバのカパブランカの言葉だが、囲碁も同じか。数々の敗北と悔しさが遠い道を歩む者を鍛えあげ、国際戦優勝へと導いたのだろう▼新聞という仕事と囲碁の二刀流の人でもある。高校に進学せず、囲碁に専念する棋士は珍しくないが、大学まで卒業し、父親が社長を務める河北新報社に入った。その分、道をさらに険しく、複雑にすることもあったはずだ▼「遼」の「尞」とはかがり火のことらしい。韓国、中国勢がランクの上位を占める世界の囲碁界である。この優勝が日本勢の道を照らす大きな火となればと願う。
 
 

 


今日の筆洗

2024年09月07日 | Weblog

「縄文杉」をはじめ樹齢数千年の屋久杉が生きる鹿児島県の屋久島。山は深く、木の精「山和郎(わろ)」の話が語り継がれているという▼昔、木を探しに2人が山に入った。昼食休憩中、近くに巨木を見つけ「たんすにすれば立派なもんができるじゃろうなあ」と言うと急にゴッシン、ゴッシンと、のこでその木をひく音がしだしたそうな▼2人が顔を見合わせていると、次にバリバリバリと巨木が倒れる音がしたが、それは立ったまま。2人は青ざめ、またゴッシン、ゴッシンなどと聞こえ始めたため逃げ帰ったという。音で怖がらせ、切ってくれるなと訴えたのか。『屋久島の民話 第一集』(未来社)で読んだ▼台風10号の接近で強い風が吹いた屋久島で推定樹齢3千年の「弥生杉」が倒れた。高さ約26メートル、幹回り約8メートルの巨木。根元近くから約1・5メートル残して折れたという。山和郎が木を守ろうとしても、自然の強烈な破壊力の前には、なすすべがなかったか。観光地の「白谷雲水峡」にあり、登山経験の少ない人でも見に行きやすい木だったという。地元の人たちの落胆を思う▼屋久杉が長寿なのは、花こう岩の地に育つせいだという。栄養が乏しいために成長はゆっくり。年輪が密となり、樹脂も多くなって腐りにくく、長生きするという▼逆境ゆえの大器晩成とは立派。弥生杉の頑張りをたたえる言葉を山和郎にかけたくなる。


寄居町で見た動物

2024年09月06日 | Weblog


今日の筆洗

2024年09月06日 | Weblog
かけ算の九九。いつからか知らぬが、日本の子どもは「ニイチガニ、ニニンガシ、ニサンガロク…」と詩歌のように唱え暗記に努める▼2002年発行の船山良三著『数学が好きになる七つの話』によると、英国の小学校の算数の本を調べたら、縦に1から10、横に1から10まで区切った升目に積を書き入れたかけ算の表があるのみ。「ニイチガニ」のような言葉の表記は見当たらなかったそうだ▼ドイツ語、フランス語も数詞の発音の特性から、リズムの良い暗唱の詞を作るのは困難という。クラスで斉唱して暗記に努める学習はどこでもやっているわけではないらしい▼奈良県の藤原京(694~710年)跡から出た木簡が、役人が実務に用いた最古級の九九の早見表だったらしいと報じられた。役所に置いて、徴税の計算などに使ったようだ。暗記している役人もいたろうが、きっと仕事に正確を期すためだろう。九九の大切さを改めて示す話題と思える▼先の本によると終戦後、日本の教育全般を改めようと連合国軍総司令部(GHQ)の要請で米国の教育関係者の使節団が来日。小学2年の算術の授業を視察して九九の斉唱を見た際「こんな難しいことを教えている」と驚いたそうだ。米国はかけ算は表を見てやればよく、暗唱させるのはむちゃだと考えるらしい▼日本侮るべからずと九九が思わせたなら、少々誇らしい。
 

 


今日の筆洗

2024年09月05日 | Weblog

車いすラグビーの国際的スター、オーストラリアのクリス・ボンド選手がこの競技についてこんなことを語っている▼「車いすに乗っている人に対し、人々はこんな先入観を持っている。優しく包み込んであげなきゃ、彼らはか弱いのだから」。ボンド選手は言う。この先入観に挑戦しているのが車いすラグビーなのだと▼パリ・パラリンピックの車いすラグビーの決勝で日本は米国を逆転で破り、初の金メダルに輝いた。快挙である。世界ランク1位、オーストラリアの猛攻を堅守で防ぎきった準決勝も忘れられぬ▼車いすへのタックルが認められており、パラ競技の中で最も激しいボディーコンタクトの起こるゲームだろう。車いすが大きな音をたててぶつかる。ひっくり返る。またの名を「マーダーボール」(殺人球技)。恐怖さえ感じる荒々しいゲームを見ればこれがパラ競技であることを忘れるだろう。そして人間の強さをあらためて思う▼「選手それぞれに輝ける場面がある」。逆転のトライを決めた橋本勝也選手が語っていた。障害の重い選手は相手の攻撃を防ぎ、味方のために壁となり、トライへの道をつくる。男女混成で女性選手も巨体選手にぶつかっていく▼自分には何ができるか。それぞれができることを持ち寄り、考え、ひとつとなって勝利を目指す。この調和の競技での日本の「金」がうれしい。お見事。


今日の筆洗

2024年09月04日 | Weblog
英国統治時代のインドで猛毒コブラを減らそうとこんな手を使った。コブラの死骸を持ってくれば報奨金を出すと触れ込んだ。どうなったか。人々はお金欲しさで、コブラを飼育するようになったそうだ。困った政府は報奨金を廃止したが、この結果、人々は飼っていたコブラを放した。コブラは前よりも増えた▼打った政策が意図しない結果に終わることをこの話から「コブラ効果」という。こちらの政策にもコブラの鎌首を連想させるところがあったのではないか。東京圏の女性が結婚を機に地方に移住すれば、支援金を出すという政府の「移住婚」構想である▼女性に限定したことが差別的だと批判され、事実上の撤回に追い込まれたが、実現したとして果たして効果があったかどうか▼最大60万円という支援金は十分とは思えぬが、うまくいけば一時的には移住者が増えるかもしれない。だが、そのまま地方に住み続ける人がどれだけいるか▼コブラを退治するには報奨金より先にコブラの恐ろしさを人々に訴えるべきだったのだろう。若い女性の移住を促すには地方の魅力と利点を高めた上で粘り強く訴えていくしかあるまい▼しかも、この政策はまるで地方に住むことは「お金をもらわなければ割に合わないこと」と言っているようにも聞こえてしまう。そう聞けば、地方に住む若い女性はますます東京へと向かうだろう。