「あの、」
「はじめまして」
彼は、目の前に立つ者を見る。
そこに、小柄な少女。
どう見ても、まだ成人はしていない。
つまり、彼より年下。
彼女は、彼より一段上の場所にいる。
見下ろすように、彼を見る。
その彼女がまとう東一族の衣装は、とても上質なもの。
高位の証。
「あなた、名まえは?」
「えーっと、」
彼が答えると、彼女はその場から飛び降りてくる。
「おい、危なっ」
「ねえ、兄様」
彼女は、彼をのぞき込む。
血がつながっていなくても、年上の者を兄と呼ぶことは、東一族ならでは。
「さっそく、水辺に行きましょ」
「え?」
「きっと、たくさんの花が咲いているわ」
「いやいやいや。待てよお前」
「待たないし」
「待てって」
彼女は構わず歩き出す。
「俺、一応、宗主様から護衛で頼まれて」
「私は遊び相手と訊いたわ」
「遊び!?」
はあ!? と、彼は気の抜けた声を出す。
「遊び。遊び……?」
「そう、遊び相手」
「遊んでいいのか?」
「いいに決まっているでしょう!」
彼女は、びしっと云う。
「こんなお天道様日和に、遊ばないでどうするのよ!」
「おぉお」
彼は彼女を見る。
少し考え、た。たぶん。
「……だな!」
「でしょ!」
「よし、行くか!」
彼女は走り出す。
「いやいや、でも待ってくれ!」
「早く水辺を見たいの!」
「お前名まえは?」
「私のこと、お前って云えるの、すごいわね」
「だから名まえを」
「私、変な名まえだから」
「何それ?」
彼女が振り返る。
「変な名まえなの」
彼は首を傾げる。
つまり、恥ずかしいと云うことなのか。
「じゃあ、何て呼ぶ?」
「何とでも」
「うーん、……」
彼は云う。
「媛さん、でいっか」
「媛さん?」
「そう」
「ふむ」
彼女は頷く。
「いいじゃない」
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