「ここが、水辺!!」
「そう!」
彼女と彼は、水辺にたどり着く。
この世界の中心に位置すると云う、水辺。
その大きさは、広大。
周辺には8一族が住んでいる。
「何だろう、……兄様」
「思った通りに申してみるがいい」
「ええ! 想像していたよりも、きちんとしてないわね、ここ!」
つまりは、こう云うことである。
東一族は、水辺に船場などを整備していない。
水辺の航路を、今現在、必要としていないからである。
水辺に乗り出していたのは、西一族との大戦中のみ。
はるか、以前のこと。
当然、水辺への道はもはやなく。
基本的には誰も近付かない。
じめじめとし、足下はぬかるんでいる。
草や木々がうっそうと生え、何か、気持ち悪い虫とかいそう。
「でも、なーんか、道っぽいものがあるのね」
「そりゃあ、ね」
こうやって、興味本位で遊びに来る者だっている。
「あ、こっちには何があるのかしら」
「おい! 急に動くな!」
慌てて、彼は彼女を掴む。
足がとられる。
「足がっ!」
「気を付けろ!」
彼女の足が沈む。
「あわ、わわわわ」
「ふふ。まだまだだな、媛さん!」
「引っ張ってよ!」
彼は、彼女を引く。
やっとのことで、彼女の足がぬかるみから出る。
「びっくりしたー」
「よく見て進むんだよ」
「難しいなぁ」
「俺も前、ここでだな、」
「何?」
「ぬかるみにはまって、ここまで沈んだんだぞ!」
彼は笑いながら、胸のあたりを手で示す。
「嘘よ!」
「嘘なもんか! お前しかはまらないって、父さんに怒られたんだぞ!」
「それはそれは……」
胸を張って云うことではない。
「それで、どうやってぬかるみから出たの??」
「相方に助けてもらった」
「相方?」
「務めのね」
務めとは、東一族それぞれが行う仕事のようなものである。
人は変わるが、通常ふたりから3人で、務めを行う。
「よかったわね」
「うんうん。あのときは本当にどうなるかと」
「だって、あなたしかはまらない……」
以下略。
彼は水辺近くをうろうろする。
「どうしたの?」
「ここにさ、」
彼が指を差す。
「いつか見たときに、舟があったんだけどなぁ」
「舟?」
「そ、舟!」
「舟!!」
彼女の目は輝く。
が、あたりを見渡しても、舟はない。
「ずいぶんと旧かったから、つないでいた縄が切れたのかな」
「沈んだとか?」
「そうかも」
彼女は息を吐く。
「残念……」
「媛さん、舟乗りたかった?」
「乗りたかった!」
「うーむ」
「ねえ。舟、乗り、たい!」
彼は考える。
「南一族だと、割と誰でも舟を持っているから、そこに行けば……」
「おお! 行こう!」
「いや、行こうって、」
「行こう行こう!!」
「いやいや。村を出るのは、人生の障害がでかいなぁ」
「人生の障害……、とは」
難しい言葉で、まとめてみた。
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