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「西一族と魔法」

2016年09月20日 | T.B.2017年

北一族は、湖を囲む一族の中で
一番繊細な魔法を使うとされている。

威力よりも、
優雅さを優先し、
研究され、計算され尽くした
とても緻密な魔法。

そのため、魔法の仕組みについて
最も詳しいとされている。

そのように魔法を研究している
一人の北一族を
ある西一族が尋ねてくる。

その西一族は彼に言う。

「なぜ西一族は魔法を使えないのか。
 使おうとすれば使えるのか
 それを教えて欲しい」

「へぇ」

北一族は感心する。

「西一族が
 そんな事を言うとは驚きだ。
 君たちは魔法を必要としない
 唯一の一族だ」

狩りを生業としている西一族は
武器の扱いに長けている。

雑な言い方をしてしまえば
全てを力で押し切る一族。
魔法を使わない事を
誇りにしている一面さえ見える。

「今の西一族をどう思う?」

その西一族は問いかける。

「どう、とは?」

「昔のように表だって敵対する一族が居ない。
 狩りを行うとは言え、
 人を殺す事には慣れていない」

「物騒だな」

おお怖い、と北一族は言う。

「何もどこかに戦いを仕掛けようと
 そういう訳じゃあない。
 仕掛けられたときの対策だ」

知っているだろう、と
西一族があえて説明する。

「冷戦状態にある東一族は
 魔法も体術も使う。
 山一族は同じく狩りの一族だが
 魔法のありなしは大きい」

それに

「友好関係にあるが
 南一族は威力のある魔法で有名だ」

ふむふむ、と
北一族は続ける。

「そして北には
 私たち魔法の専門家が居るからね」

からかうように彼は言う。

「囲まれて、怯えているのかな。
 誇り高き狩りの一族が」

「もちろん、
 周辺の一族の事は信じている。
 だが、停戦の約束も
 交わしたのは随分昔のこと」

そう言って西一族。
一族を治める若い村長は笑う。

「もしもの事を
 考えて居るだけだよ。
 それが、村を治める者の勤めだ」

了解だ、と北一族の彼は言う。

「料金は前払いで貰っているからね。
 約束は守ろう」

まずは、と
彼は西一族の村長に告げる。

「各一族で使う術は異なるが
 魔法という意味では同じだ。
 訓練さえすれば
 他一族の魔法を使いこなすことも可能だろう
 東一族が南一族の魔法を、といった風に」

けれども、と彼は念を押す。

「西一族は他一族より
 訓練の量が倍以上かかると思って欲しい。
 そもそも魔法を使うという概念が無いからな」

ふぅん、と
西一族の村長は言う。

「特に早く覚えられる魔法で良いんだが」

「……普段、魔法を使う一族が
 西一族の村を訪れたときの
 あの不思議な感覚が分からないだろう」

「急に何の話だ?」

まぁ、聞け、と
北一族の彼は言う。

「まるでな、
 魔法の無い世界に放り込まれたような感覚なんだ」

「当たり前だろう、
 西一族は魔法を使わないのだから」

「違うなぁ。
 そう言う事では無いんだ」

意味がくみ取れない西一族の村長を
どこか面白がって
北一族の彼は言う。

「私たちは、他の一族の村に行っても
 当たり前に魔法を使うことが出来る。
 それが、
 西一族の村では魔法が使えない様な気分になる」

「そうなのか?」

「気分になる、と言うだけだ。
 もちろん、使う事が出来る。
 ただ、使う事を躊躇ってしまう」

「……意味が分からないんだが?」

北一族の彼は
もしかしたら、と
そう前置きを置いて言う。

「西一族は、
 魔法を打ち消す魔法を使っているのかもしれない」

「なんだそれ。
 相殺魔法と言うことか?
 そんなもの使えないぞ」

「だろうね、
 それを西一族が無意識に使っているのかもしれない
 と、そういう仮の話だ。
 まぁ、一番合っている魔法なのかもしれない」

「そんな魔法、意味があるのか」

「もちろん。
 使い方によっては
 一番脅威となる魔法だ」

これだから、
魔法を持たない一族は、と
北一族の彼は内心呟く。

もし、世界から魔法が無くなったら
一族間の関係も変わりかねない。

「難しい話だな。
 それで、魔法は使えるのか?」

「可能だ。
 希望するのであれば
 筋がある者に訓練を付けても良い」

ただし、と
北一族の彼は言う。

「得た力で
 北一族の村を襲うのは止めてくれよ」

「何を言う、
 どうせ、自分たちで押さえられるレベルまでしか
 教える気は無いだろうに」

そうして、鋭い笑みを見せる
西一族の村長に
あなどれないな、と
北一族の彼は思う。

知らぬふりをして
裏で何かを企みかねない人種だ。

もしや、と
彼は言う。

「俺は何か間違えてしまったかもしれないな」



T.B.2017
西一族と魔法
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