誠治の額から、汗が流れる。
「何だ。西一族の若造か」
「そう云うお前は」
「誠治」
涼が声を出す。
「あれは」
誠治が、目を細める。
「あれが山一族だよ」
山一族は馬に乗ったまま、冷笑する。
「そっちは何だ。西一族に黒髪がいるのか」
「黙れ!」
誠治が声を上げる。
「そもそも、」
「お。思い出した!」
誠治が何か云う前に、山一族が手を叩く。
涼を指差す。
「お前、あれだ。熊を二匹仕留めたやつだな!」
涼は、答えない。
「うちの一族が、誰だったか見てたんだよ」
山一族が云う。
「黒髪の西一族が、熊を仕留めたって」
山一族は、再度手を叩く。
「すごいな! うちでもなかなか出来るやつはいない」
「見ていた、だって!?」
誠治が声を上げる。
「ここは、西の土地だ! なぜ山がいる!」
「おいおい」
山一族は手を上げる。
「ここは、山一族の土地だろ」
「ばかな! 勘違いしているのか!」
「勘違いしているのは、西一族だ」
山一族が云う。
「このあたりは、呼べば、すぐに山一族が集まるぞ」
涼はあたりを見る。
誠治はその様子に気付き、涼に訊く。
「いるか?」
「いや」
涼は首を振る。
「ここには、この山一族ひとりだ。近くには誰もいない」
「へえ」
山一族は、弓矢を手に取る。
「黒髪の方、気配が判るのか」
涼は、山一族を見る。
けれども、視線は合わない。
と、
山一族が突然、手を動かす。
「何、」
「動くな、誠治!」
涼が声を上げる。
矢。
「なっ!!?」
誠治も声を上げる。
動けない。
山一族が放った矢は、ふたりの間を抜け、すぐ後ろの木に刺さる。
「お前っ!」
「誠治」
涼が云う。
「西に合図を出すか?」
「いや」
誠治は、山一族をにらむ。
「ばかにしやがって……」
「誠治、」
「おい、山一族!」
誠治は、刀を抜く。
NEXT