TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「山一族と海一族」8

2015年12月25日 | T.B.1998年

「どうした?」

 マユリの助けを呼ぶ声に気付き、ナオトがやって来る。

「ナオト様!」

 マユリは、ナオトに駆け寄る。

「村の外に何かが!」
「何か?」
 ナオトは村の外を見る。
「何かって、何だよ?」
「判らないんです!」
「落ち着けって」

 ナオトが云う。

「息を整えるんだ」

 マユリは目をつむる。
 胸に手を当てる。
 息を吸い込む。

「……アキラ様が、何者かに怪我を負わされて」
「アキラが?」
「それが、海一族ではないかと」
「海が?」
 マユリは頷く。
「そんなばかな」
「でも、絶対に身内ではありません」

 ナオトは再度、村の外を見る。

「アキラはそれを追っていったのか?」
「おそらく……」

 マユリはうなだれる。

「海一族か……」

 ナオトは呟き、手を上げる。

 一羽の鳥がそれに答える。

 ナオトの鳥。

「マユリ」
「はい」
「俺の名を使っていいから、とにかく、上に報告しろ」
「判りました」
「俺は、アキラを追う」
「お願いします」

 ふたりは、同時に走り出す。


 雨が降り続いている。


 この雨はやがて山を下り、海へと向かう。

 山を下りる形のナオトは、雨と併走していることになる。

「どこまで行ったんだ。あいつ!」

 森は暗い。
 ナオキは山の斜面を利用し、山を下る。
 先を飛ぶ鳥を追う。

「このままじゃ、海にたどり着くぞ」

 夜の雨で、視界はいっそう悪い。

「っ!」

 思わず、ナオトは立ち止まる。
 そこに

「まじかよ」

 大きな、動物の死体。

 あたりに、死臭。

「いったい誰が」

 山一族であれば、無用な殺生はしない。
 もし
 獲ったのであれば、必ず、村へ持ち帰る。

 それが、山一族の掟。

 ナオトは、獲物に近付く。
 その身体を見る。

 致命傷となる傷は見受けられない。

「どう云うことだ?」

 何カ所かの、小さな傷。

「……まさか、毒で?」

 ナオトは首を傾げる。

 と

 鳥の鳴き声に気付き、顔を上げる。

「アキラはいたか?」
 ナオトは、鳥に呼びかける。

 鳥は、ナオトの頭上で旋回し、合図を送る。

 ナオトは、あたりを見る。
 目をこらす。



NEXT
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「悟と諜報員」8 | トップ | 2015年末 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

T.B.1998年」カテゴリの最新記事