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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「小夜子と天院」19

2015年12月04日 | T.B.2017年

「小夜子!」
「…………」
「小夜子!」
「……天院、様?」

 彼女は、彼の声に、気付く。

 目を、開こうとする。
 けれども、見えない。

「小夜子、何があった?」
「何……が」
 彼女は、彼を見ようとする。
「思い、出せない……」

 彼は、横たわる彼女を、抱き上げる。

「頑張れるか?」

 彼女は、頷く。
 考える。

 いったい、何があったのか。

 私の身体は、なぜ、動かないのか。

「天院……様」
「何?」
「私は、今……どうなってる、の?」
「大丈夫だ」
「だいじょう、ぶ?」

 彼女は、息をする。

 大きく息をして、

 何が起こったのか、思い出そうとする。

 痛み。

「頑張れるか?」
 彼が、再度訊く。
「今、医師様のところに行くから」

 彼は、走り出す。

「……まって」

 そうだ。
 砂一族が、いて

 その人が、

 毒を。
 ……宗主様に毒を。

 ああ

 血?
 私の身体が、冷たくなってる。

 なぜ?
 なぜ?
 どうして、こう云うことに……。

 ああ

 だめ。

「まって」
 彼女は、口を開く。
「……様、まっ、て」

 彼は首を振る。
 止まらない。

 走る。

「おね、がい」

 彼女は、息苦しいのに、気付く。

 苦しい。

 痛い。
 痛い。

 苦しい。

 私、もう、だめなの?

 これから
 これから……

 仕合わせになれたかもしれないのに。

「小夜子?」

 彼が、立ち止まる。
 彼女を見る。
「……あの、ね」
「小夜子、しっかり!」

 ああ

 私

 これは、もう

「てんい、様、あの……ね」

 彼女は、笑おうとする。

 せめて

 最期の言葉を

 伝えたい。


 好きだよ、て。


 あれ。
 天院様、

 どうして、泣くの。

 違うの

 私、あなたに、喜んでもらおうと、思ってたんだよ。

「小夜子、助かるから……、しっかりして……」

 そう、彼の声が聞こえる。

 彼女は、口を開こうとする。

 そうだよね。
 助かる、かな。

 そしたら
 これからも、一緒にいられるかな。

 嘘ばかりの、あなただったかもしれないけれど
 あなたと一緒にいられたことは

 嘘じゃないし

 私の想いも、嘘じゃない。

 ねえ、

 天院様。

 泣かないで
 泣かないで

 笑って、……くれる?

 ああ。
 私

 仕合わせ、なんだよ。


 彼女は、彼に、手を伸ばす。


 けれども

 その手が届かなかった、なんて

 彼女は知るはずもない。





2017年 東一族の、ある少女の物語



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