「小夜子!」
「…………」
「小夜子!」
「……天院、様?」
彼女は、彼の声に、気付く。
目を、開こうとする。
けれども、見えない。
「小夜子、何があった?」
「何……が」
彼女は、彼を見ようとする。
「思い、出せない……」
彼は、横たわる彼女を、抱き上げる。
「頑張れるか?」
彼女は、頷く。
考える。
いったい、何があったのか。
私の身体は、なぜ、動かないのか。
「天院……様」
「何?」
「私は、今……どうなってる、の?」
「大丈夫だ」
「だいじょう、ぶ?」
彼女は、息をする。
大きく息をして、
何が起こったのか、思い出そうとする。
痛み。
「頑張れるか?」
彼が、再度訊く。
「今、医師様のところに行くから」
彼は、走り出す。
「……まって」
そうだ。
砂一族が、いて
その人が、
毒を。
……宗主様に毒を。
ああ
血?
私の身体が、冷たくなってる。
なぜ?
なぜ?
どうして、こう云うことに……。
ああ
だめ。
「まって」
彼女は、口を開く。
「……様、まっ、て」
彼は首を振る。
止まらない。
走る。
「おね、がい」
彼女は、息苦しいのに、気付く。
苦しい。
痛い。
痛い。
苦しい。
私、もう、だめなの?
これから
これから……
仕合わせになれたかもしれないのに。
「小夜子?」
彼が、立ち止まる。
彼女を見る。
「……あの、ね」
「小夜子、しっかり!」
ああ
私
これは、もう
「てんい、様、あの……ね」
彼女は、笑おうとする。
せめて
最期の言葉を
伝えたい。
好きだよ、て。
あれ。
天院様、
どうして、泣くの。
違うの
私、あなたに、喜んでもらおうと、思ってたんだよ。
「小夜子、助かるから……、しっかりして……」
そう、彼の声が聞こえる。
彼女は、口を開こうとする。
そうだよね。
助かる、かな。
そしたら
これからも、一緒にいられるかな。
嘘ばかりの、あなただったかもしれないけれど
あなたと一緒にいられたことは
嘘じゃないし
私の想いも、嘘じゃない。
ねえ、
天院様。
泣かないで
泣かないで
笑って、……くれる?
ああ。
私
仕合わせ、なんだよ。
彼女は、彼に、手を伸ばす。
けれども
その手が届かなかった、なんて
彼女は知るはずもない。
2017年 東一族の、ある少女の物語
FOR「天院と小夜子」22