TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「悟と諜報員」2

2015年11月10日 | T.B.2000年

諜報員か、と

狩りの後の作業も終え、
1人、帰路につきながら
悟は考え込む。

「内部諜報員」

居るのだろうか、本当に。

村人には公表されていない
諜報員という存在。

そんな彼らですら
存在を知らない
内部を探るための諜報員。

直子が気にしすぎていると
そう言われたらそうかもしれないが

不正を行うかもしれない。
潜入した土地で寝返るかもしれない。
そう考えると
彼らを見張る役目というのも必要なのも頷ける。

「誰、だろうな」

普段緊張した場所で過ごしているのだ
少し息抜きをしてみよう。

面白い事を見つけた、と
悟は内部諜報員を捜してみることにした。


諜報員に選ばれる者は
身体能力が高いことが条件とされる。
敵の一族に侵入して
何かあれば戦わなくてはいけないからだ。

自分が選ぶのだとしたら

「例えば……」


「え?透(とおり)がどうかしたのか?」


透は若者の中でも友好関係が広い。
温和な性格で
誰にでも対等に接する。

誠実だし、口も堅い。
信頼して色々と相談されるのではないだろうか。
狩りの能力も高いので
条件としては合致する。

「よく遠出することは無いか?」

本人に聞いてみても
はいそうです、と答えるわけがないので
彼の家族に話を聞く。

西一族は狩りの一族。
獣由来の病の予防接種を兼ねて
医者の助手をしている彼の兄にそれとなく聞いてみる。

「俺も病院に泊まり込むことが多いから
 あまり把握していなくて
 遠出って言うと、他の村?
 透なんかしたのか?」

「いや、他一族のおすすめの土産があったら
 教えてもらおうかと思って」

「悟もよく出かけているものな
 彼女へのお土産で悩んでいるのか?」

大変だな、と透の兄は笑いながら言う。

「でも、確かに最近
 北一族関係の資料を集めていたな」

「北一族?」

直子が寄ったのも北一族。
一致する。

「ほら」
「うん?」

「あいつ、結婚間近だろう。
 旅行北一族にするのかな。
 宿もキレイなところ多いし、観光名所もあるし」

「あ、うん」

「ウチ、父親居ないから
 俺が親族代表挨拶なんだよ緊張するー」

「そうか、ええっと、おめでとう」

うーん?
ここは空振りだったか、と
悟は病院を後にする。

こいつかな、と
すぐに考えつくような人物じゃ
内部諜報員に適さない。

いや、でも、あえてそこにしているのかも。
それに行動は内密にして居るのが諜報員だ。

「ここ、深く考え始めると
 どつぼにはまるな」

透はとりあえず保留。

悟はまた考える。



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「天院と小夜子」21

2015年11月06日 | T.B.2017年

「さすが、東一族」

 その瞬間、一気に緊張が走る。

「早めに、ここを出ておこうかと思ったけれど、」

 この声は

「包囲網が早すぎて、出られなかった」

 ――砂一族。

 彼は振り返る。
 宗主と彼のすぐ近くに、砂一族がいる。

「何だ。……砂はひとりか」

 宗主が声を出す。

「砂一族が、何の用だ」

「お前を殺しに来たんだよ」
 砂一族が云う。
「そもそも、お前だって、供は、たったのひとりなのか?」
 笑う。
「東一族の宗主なら、もっと護衛を付けるべきだ」

 宗主が訊く。

「諦めたのか」

「そうだよ」

 砂一族が云う。

「ただ、……俺らもそれなりの訓練を受けているから」

 逃げられないと判ったら

「東の宗主と刺し違えろって」

 砂一族が笑う。

「その小さいのも、知ってるぞ」
 砂一族は、彼を指差す。
「よく、砂漠にいるやつだ。なかなかの腕の」

 彼は、弓を握る。

「お前のせいで、東の攻略が出来なくて困ってるんだよ」
「そうか」
 宗主が云う。
「うちの、大将だ」
「そうだと思ってた」

 砂一族が云う。

「名まえは知っているが、顔をよく見たのははじめてだ」
 砂一族が、宗主と彼に近付く。
「ん? 何だ。お前、宗主に似てるな」
「下がれ」

 宗主が云う。

「直に、東一族が集まってくる」
「だろうな」
「投降しろ」
「何でだよ」

 砂一族は、歩みを止めない。

「本当に、いいとこまで行ったんだけどなー」
 砂一族が云う。
「東の女を使って毒を運ばせたのに」

 彼は、目を細める。
 彼は、弓を握ったまま、宗主の前に出る。
 砂一族を見る。

 砂一族は、手を上げる。

「おい、やめろ。俺は、今日は宗主に用だ」

 彼は、何も云わない。

「何だ。お前を倒さなきゃ、だめだって?」

 砂一族は、さらに近付いてくる。

「下がれ」

 宗主が云う。

「天院」

 呼ばれて、彼は、振り返る。

「お前に下がれと云っている」

 彼は宗主を見る。

「何を」
「お前の手を借りる必要はない」
「宗主様」
「西一族の血が流れるやつの手を、借りようとは思わない」
「…………」
「今のお前は、役に立たない」
「判ってます」
「なら、下がれ」

「下がってもらった方が、俺は楽だなー」

 瞬間

 砂一族が、動く。
 宗主に向かって。

 早い。

 小刀。

 毒。

 彼は、宗主と砂一族の間に立ったまま。
 後目で、砂一族を見る。

 動かない。

「天院!」

 宗主は構える。
 紋章術。

「退けと云っている!」

 宗主の紋章術が、発動する。

 その発動の目の前に、彼がいる。

 けれども、



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FOR「小夜子と天院」16

「悟と諜報員」1

2015年11月03日 | T.B.2000年

狩りを終えて広場に戻った悟(さとる)は
自分の班に指示を出す。

「誠(まこと)と基紀(もとき)は
 獲物を捌き始めてくれ。
 直子(なおこ)は俺と報告に行くぞ」

分かった、と
誠達は頷いて獲物を川辺に運び始める。
悟は班長を務めるので
監督役に成果の報告に向かう。

「報告を終えたらすぐに合流する」
「早く来いよ。
 結構な大物だから手間がかかる」
「誠は仕留めなれているから
 いつもの事なんじゃないの」
「茶化すなよ、直子、
 お前も早くな!!」

はいはい、と手を振って
悟と直子は報告に向かう。
沢山の若者が狩りを終え
広場はごった返している。

2人は報告を手短に済ませると
誠達が待つ川へ向かう。

広場と川との間の人混みが切れる瞬間。
前を向いたまま悟は呟くように言う。

「山の動きはどうだ?」
「異常なし。
 こちらに侵入するという動きはないわ
 ただ、海となにかあるかも」
「海と山か」

答える直子も前を向いたまま。
唇の動きも最小限で
遠くから見れば2人が会話をしているとは気付かない。

「あそこへの侵入はかなり難しいから
 恐らくという所だけど」
「分かった、村長にはそう報告する」
「お願いね。そこは悟にしか頼めないわ
 村長の親族だから
 家に出入りしても怪しまれないもの」

「親族だから取り上げられている訳じゃないぞ」

「そう言う意味じゃないわよ。
 一番の実力者じゃない、東の担当よ、あなた」

ふふふ、と少し雑談気味になり
直子の表情が緩む。

だが、次の瞬間不安げな表情を浮かべた直子に
悟は違和感を感じる。

「何だ、気になることがあれば
 全て報告しろ」

「あ、ええ」

すこし口ごもりながらも
たいした事じゃないの、と、直子が言う。

「私、この前の潜入で帰りのルートを変えたのよ
 北一族の村に寄ったの。
 母の誕生日だったから、何か贈りものをと思って」
「……まぁ。逆にその方が
 出かけていた理由ももっともらしいけどな」

なんだ、怒られたのか?と
尋ねる悟に違うの、と直子は首を振る。

「知っていたの、村長。
 親孝行だなって、私が北一族村へ寄ったこと、報告する前に」

気にし過ぎかな、と
手を振る。

「ちょっと、考えただけ。
 いるのかな、もう1人、って」
「もう1人?」

「私たちを見張る役目の人」

「おいおい、居たとしても、
 直子はきちんと役目を果たしてる。
 村長だって褒めようとしてそう言っただけだ」

「そうね、
 ちょっと寄り道したから後ろめたかったのよね」
「なんだ、罪悪感があったのか」

気にするな、と悟は肩を叩く。

行こう、という言葉と共に
すっと2人は会話を止める。

「おーい、遅いぞ」

川で血抜きを行っていた2人が
姿の見えた悟達を呼ぶ。

「捌くのは頼むぜ悟。
 ナイフ裁きはお前に適うやつは居ないもんな」

ほい、と基紀がナイフを手渡す。

「頼むばかりじゃなくて
 ちゃんと見習いなさいよ基紀」
「あぁ、もう、
 俺は細かい作業が苦手なんだよ。
 どうせ諜報員にはなれませんよ」

獲物を押さえていた
誠がおいおい、と呆れる。

「お前、諜報員なんて信じているのか?」

「あら、分からないわよ
 実は私かもしれないじゃない」
ねぇ、と直子。
「無い無い、それは無いわ」
「失礼ね」

はしゃぎ始めた2人を制するように
悟のため息が聞こえてくる。

「おい、手が止まってるぞ。
 今日はこれが、終わらないと帰れないんだ。
 分かってるだろうな」

きびきび動く、と、悟。

「口を動かすなら手も動かせ
 ただの噂話だろ」

そうね、と
直子がにっこりと笑って言う。


「諜報員なんて実際に居るわけ無いんだから」


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