彼女は、ひとり。
果物を抱え、東一族の村のはずれ、墓地へと向かう。
その歩きは、ゆっくりだ。
墓地に入ると、彼女は、両親の墓へと向かう。
あたりには、誰もいない。
いつも通り、彼女は墓をきれいにする。
果物を供える。
それが終わると、墓前に坐る。
墓を眺め、両親の形見の品を取り出す。
――焼け焦げた、東一族の装飾品。
彼女は、それを付ける。
彼の装飾品と、両親の装飾品が並ぶ。
そのまま。
時が過ぎる。
彼女は、ただ、墓前を見つめる。
しばらくして。
誰かの足音。
彼女の近くまで、その音はやって来る。
「……誰?」
彼女は振り返る。
彼女の後ろに来た者は、一瞬、身を引く。
「……誰、なの?」
彼女は目をこらす。
そこに、誰かがいるのは判る。
けれども、姿はよく見えない。
「ごめんなさい」
彼女は云う。
「目が悪くて、見えないの」
ああ。と、そこにいる誰かは頷く。
「迷い込んで悪い。自分は、外から来た商人だ」
「商人?」
「……実は、ね」
商人は彼女を探りながら、話す。
けれども、彼女はその様子に気付かない。
「自分は、東一族の偉い方に薬を届けてる」
「そうなの」
彼女が云う。
「私、宗主様の屋敷で働いているの。案内します」
彼女は立ち上がる。
「目が見えなくて早く歩けないのだけど、着いてきてもらえれば」
「いや、」
商人が云う。
「自分は、急いで次に向かわなくちゃならない」
「まあ」
「君に、託してもいいかな」
「もちろんです」
商人は、小さな包みを取り出す。
「大丈夫?」
「ええ」
彼女は受け取ろうと、手を差し出す。
と
「あれ?」
商人は、彼女の手に付けられた装飾品に気付く。
焼け焦げた装飾品。
「……何か?」
「その装飾品……」
「これ、ですか?」
「知ってるよ!」
商人は、彼女の父親の名を出す。
「君は、娘さん?」
「はい」
「ああ。目の病だと、確かに云っていたよ!」
「父が?」
「君の薬を作っていたのは、俺だ」
「そうだったのですか」
彼女は頭を下げる。
「お父さんのことは、本当に悔やまれるね」
「……ええ」
「お父さんから、話は聞いてる?」
彼女は首を振る。
「ごめんなさい。商人さんのことは、何も……」
「いや、いいんだ」
商人は、笑う。
それでいい、と。
「じゃあ、悪いけど」
商人は改めて、薬の包みを差し出す。
「これ、頼むね」
「判りました」
彼女はそれを受け取る。
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