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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「悟と諜報員」3

2015年11月17日 | T.B.2000年

「お」

北一族の村へと向かう馬車乗り場に
広司(こうじ)が居る。

単純に狩りの腕という意味では
広司は若者の中で飛び抜けている。

もし広司と対峙することになれば
決して楽には終わらないだろう、と
悟はよく考える。
それくらいの腕前だ。

「出かけるのか?」
「…………」

悟が話しかけると
いかにも面倒そうな表情を浮かべて
その場を離れる。

「馬車を待っているんじゃないのか?」
「まだ時間がある」

ここに居て、
悟と話すつもりはないと言うこと。

「……相変わらずだな」

「広司って最近
 よく北へ行くわよね」

同じく馬車乗り場にいた女性達が言う。

「最近?」
「えぇ、最近。
 多いわよね」
「よく同じ便になるわよ」

北一族は市場の村。
様々な村から特産品の出店が並び
若者の遊び場所の一つだ。

だが、どうにも広司のイメージが
そこに噛み合わない。

「でも北一族の村に着いたら
 すぐどこか行っちゃうのよね」
「市場でも見かけないし
 何しているんだろう」

「大事な用事でもあるのだろう」

そんなに簡単に
異変を気付かせることは無いが
調査に入る村に行く時は
違う村を経由する。
悟がよく使う手段だ。

だが、

「広司、ね」

仮に悟が選ぶ側だとして
絶対に諜報員には選ばないタイプだ。

狩りの腕は確かだが、
何かにつけて自分の判断を優先する。
それが悪いこととは言わないが
問題も起こる。

以前、西一族と敵対する東一族の少女を
連れて来た時は大変だった。
ただでさえ危険な東一族への侵入を
悟は何度もする羽目になった。

「むしろ、あいつが
 北一族で何か問題を起こしていないか
 心配だ」

次に広司を見かけたのは
数日後の馬車乗り場。
ちょうど、北一族から折り返してきた便が
付いた所だ。

外を見張るのも諜報員だが
逆に入ってくる人に
怪しい者が紛れていないかと
目を光らせるのも役目の一つ。

広司は馬車を降りると
周りに目をくれることもなく
その場を後にする。

「ん?」

その首元にはマフラーが巻かれている。

今の時期はそれほど寒くもなく
寒さをしのぐためではない。
薄い生地で作られたそれは
別の意味合いを持つ。

マフラーと帽子を常に着用しているのは
北一族だ。

つまり、
広司は北一族とつながりがある。

逆の可能性もあるのだ。
広司は西一族の諜報員なのではなく
北一族の諜報員かもしれない、という事。

と、その時。

ふっと僅かにそのマフラーに触れながら
広司が少し微笑む。

「………」

えぇええええ。

「今の、広司、だよな」

思わずその場にいる人に声をかけてしまうぐらい
珍しものを見て悟は動揺している。

「あ~、悟さん聞いてよ」
「うんうん」

馬車乗り場の女性陣の言葉も
思わず適当に返事をしてしまうくらい。

最近、頻繁に北一族の村を訪れる。
村に辿り着くと
すぐ姿をくらます。
そして、北一族のマフラー。

「広司、北一族の彼女が居るみたい。
 私狙ってたのにな~」

無意識に浮かべる微笑み。
彼女。
北一族の。


「……なるほど」




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