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「『成院』と『戒院』」7

2020年02月25日 | T.B.2010年
往診を終え、病院に戻っていた『成院』は
ふと佇んでいる大樹を見つける。

「大樹」

声を掛けるも、距離もあるからか
大樹は顔を上げない。

「「?」」

荷物を持つのを手伝ってくれていた
往診先の家の子と
ふと顔を見合わせる。

「どうしたんだろう?」
「うん」

『成院』はその子から荷物を受け取る。

「ここまでで大丈夫だ。
 もう戻って良いぞ」
「ありがとうございます」
「次は翌月に。
 もし調子が悪くなったらその時はすぐ呼んでくれ」
「はい」

じゃあ、と『成院』はその子に手を振る。

「お大事に」

彼の姿が見えなくなってから
やれやれ、と『成院』はため息を付く。

「大樹、
 どうしたんだこんな所で」

『成院』が、近くに行って話しかけて
やっと大樹は顔を上げる。

「成院か、驚かせないでくれ」
「何かあったのか?」
「……なんでもない」
「そうか?」

いや、と大樹の歯切れは悪い。

どうせ晴子を経由して
何か伝わるかも知れない、と
諦めたのか渋々語り始める。

彼ら占術師は
村の今後を占っていく。
村人の将来から砂一族の襲撃まで全て。

「先日から、俺の占術だけが
 違う結果を出す」
「違う、とは」
「こちらの方角が良くない、と
 そういう占術だ」

良くない物、とは
ほとんどが砂一族の事を示す。

それを元に
戦術大師が砂漠の見張りを配置する。

「何か別の事なんじゃないか?」
「最初はそう考えていたが」

「皆が左と結果を出す中
 俺の占術だけ右を示す」

そういう事が続く、と
大樹はため息を付く。

「占術の腕が落ちているのかも」
「いや、深く考えるな」
「考えるさ。
 新米の占術師ならば結果は捨て置けるが
 俺が出した結果となれば大将も考える」

人手をそちらにも割かなければならない。

「そして、もちろん
 俺の示した方角には何も起こらない」

「大樹、占術はあくまで指針だ。
 決めているのは大将だろう」
「そう言う日もあるで済めばよいさ。
 連日続いてみろ」

はー、と深くため息を付いて
大樹は胃の辺りを押さえる。

元々神経質な所がある彼だ。
考え込むほど
悪循環に陥っているのかも知れない。

「今日、俺は非番なんだが」

つ、と持っていた杖で
村の入り口を指し示す。

南一族へと続く道に繋がる
村の端。

「今日はこちらと結果が出た」

「非番にも占術をしているのか」

気に病むだけだぞ、と
『成院』は言うが大樹は首を振る。

「何か原因があるのかも知れない。
 それが分かればすっきりする」
「そうか?」

思い詰めた顔をしながら
進む大樹に『成院』は声を掛ける。

「そういう結果なら
 誰か人を付けた方が」
「無駄に人を動かすわけには
 いかないだろう」
「おいおい」

往診が早く終わったので
まだ次の予定には時間がある。

仕方無い、と
『成院』は大樹の後を追う。


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