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「『成院』と『戒院』」8

2020年03月03日 | T.B.2010年

追い返されると思ったが
大樹はついてくる『成院』に何も言わない。

やはり何かあったら、と
思う所もあるのだろう。

大樹は村の端にある門を抜ける。
その日の門番が何事か、と
二人を見るが
すぐ戻る、と『成院』は声を掛ける。

「あまり遠くに行くなよ」
「分かっている」

「………」
「………」

「そう言えば」

突然立ち止まり、ぽつりと大樹は語る。

「お前の事を占ったことがあるんだが」
「俺!?」

いや、怖い事するな、と
そういう目線を大樹に向ける。

「お前、南一族の村に行ったことはあるか?」
「南一族の村?
 もう随分幼い時だな、それ以来は無い」

どちらかと言えば、
華やかな北一族の村、と言いかけて
それは戒院の事だったと
思わず口をつぐむ。

「穏やかな所だと言うが、
 そうだな、医師の仕事が一段落しないと」

なかなか、長く村を開けるわけにも行かない。

「特に用事が無いのなら
 行かない方が良い」
「そうなのか?」
「このまま、この暮らしを続けたいのなら
 そうしろ」
「なんだそれ、怖いな」

南一族の村で事故にでも遭うのだろうか。
占術師の占いは
どこまで見渡せているのか分からない。

「ただ、そう言う結果が出ただけだ。
 詳しくは分からん」

そう言って大樹は深いため息を付く。

「まあ、俺の占いが合っていれば、だが」

「面倒くさいぞ大樹」

というか、随分村境から離れて歩いて来てしまった。
そろそろ戻らないと次の予定もある。

「大樹戻ろう、随分歩いて来てしまった」
「そうだな。
 やはり、何も無かったか」

大樹は肩を落とす。

「ああうんそれは」
「いいんだ。
 何も無いなら何よりだからな」

「それにこのまま行くと
 成院が南一族の村に辿り着いてしまう」
「ああ、こっちの方角は
 俺にとっても良くないんだったな」

と、二人は元来た道を振り返る。

「はは」
「…………うん?」

人が立っている。
旅人らしいマントを深く被り、
どこの一族の者かは分からない。

「こんにちは」

その声や、僅かに見える口元から
何となく女性だろうか、と。

「ああ、こんにちは」

東一族式の礼をした大樹の後ろで
『成院』は考える。

先程までは何も無かった。
今まで歩いて来た道。
誰かが後ろを歩いてきた、と
そういう気配も無かった。

「放っておこうかとも
 思ったのだけれど」
「……何を?」

「大樹!!」

『成院』は大樹の首根っこを掴み
後ろに引きずる。

「成院、何」

今まで大樹が居た所を
刃先が掠めていく。

「な!!え!!?」

後ろから、また別の声。

「身なりからして、占術師と医師かな?
 そのまま見過ごしても良かったが」

今度は男の声。
もう一人居る。

「今、大樹と言ったか?
 成院と言ったか!?」

「聞き間違いじゃなければ
 占術大師と医術大師だな」
「違うわよ、次期」
「どちらだって良いさ。
 要するに重役って事だろう」

「砂一族」
「何でこんな所に」

ここは南一族の村へと続く道。
砂一族の砦から
砂漠を下り、あえて遠回りしなくては
来る事が出来ない。

「なんでと思うだろう?
 驚いてくれたなら甲斐があるってもんだ」

「いや、意表を突いてみようかとね」

「こんな砂漠の下を回り、
 遠回りしてこちら側から攻め込むなんて
 まぁ、そう考えないだろうと」

「考えても、守りは薄いだろうと」

「薄いと言っても」

舐めてくれるな、と『成院』は言う。

「二人ぐらいは
 どうにか出来るよう門番も鍛えてある」

そうでなけれは、番の意味がない。

「俺たちもそう簡単に
 攻め入れるとは思っていないさ」
「ちょっと混乱させられたら
 いいなぁぐらいの話だったんだけど」

「ああ、ついて居るわ私達。
 今、こんな所に
 2人ノコノコと出てきてくれるなんて」

「大樹」

『成院』は頭を抱える。

「良かったな。
 お前の占術は外れていなかったぞ」
「………ああ」
「俺の凶方ってのも、これか。
 南一族の村ではなく、
 南一族側の方向って事か」

「悪かったって!!本当すまん!!」


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