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「辰樹と媛さん」4

2019年10月04日 | T.B.2019年


 彼女は彼を掴む。

「ねえ、早く行こうよ!」
「待て待て、今すぐには無理だ」
「じゃあ、いつ?」
「計画を練らねばなるまい」
「隣の村に行くのに、そんなに、壮大な感じ??」
「お前な。父親に怒られる覚悟ある?」
「うっ、」

 だろう? と、彼は腕を組む。

「いかに、ばれずに村を出て、ばれずに戻ってくるか」
「うん」
「計画を立てなければ!!」
「どうやって?」
「任せろ、そう云うのは得意だ!」
「じゃあ、任す!」
「媛さんは怒られる覚悟をしておくんだ」
「怒られないように、計画を立てるんでしょう!」

 ……と、彼女は首を傾げる。

「そう云えば、この前も云われたような」
「何を?」
「父様に怒られる覚悟が出来たら、家に連れて行ってくれるって」
「えっ!!」
「結局、それっきり会ってないけど」
「いや、誰! それ誰!!」
「東一族の誰か」
「誰だよ!!」
「判んない」
「ずいぶんだぞ、お前ずいぶんだそ! その言葉だけ聞くと!!」
「だって、村のおうちを見てみたかったんだもん!」
「怪しいって、絶対、そいつ!!」
「でも、もう、誰かは判らないもん」
「何だよ、そう云うの気を付けろ!」
「父様は誰だか、知っている風だったけど」
「おいおいおい。死んだな、そいつ」

「あっ!!」

「だから、急に動くのやめて!」

 またもや突然の動きに、彼は彼女を追いかける。

「何これ、見ーつけたっ」

「ほんっと、媛さんっ……」

 彼は肩で息をする。

「じゃーん!」
「おお」
「装飾品だわ」

 彼女は、旧ぼけた東一族特有の装飾品を見つけ出す。
 あまりにも旧すぎて、掘られている模様も、判らない。

「このあたり、よく転がってるんだよ」
「へえ」
「置いて行けよ」
「なぜ?」
「持って帰っても、何にもならない」
「磨けばいいんじゃない?」
「あのな」

 彼が云う。

「みんな、意味があって、ここに装飾品を置いていくの!」
「意味? 願い事が叶うとか?」

 私も、と、彼女は自身の装飾品を外す。

「舟に乗りたぁーいぃっ!!」
「待って媛さんっ、待って!!」

 彼は、すんでのところで装飾品を掴む。

「そう云うことじゃないから、本当にっ!!」
「なら?」
「叶わなかった恋を悲観するの!」
「恋!?」
「そう!」
「医師様が云っていた」
「医師様が……」
「その昔、医師様のご兄弟だかも恋叶わず、装飾品を投げたとか」
「何てこった」

 大人の事情はいろいろなのである。

 それならば仕方ない。

 彼女は思いっきり、装飾品を遠くへ投げる。

 その装飾品は、音を立てて水辺の中へと落ちる。

「さようなら、医師様のご兄弟の恋」
「いや、その装飾品かは判らないから……」
「…………」
「…………」
「…………」
「帰るか?」
「そうね」

 彼女と彼は歩き出す。

「じゃあ、次は南一族の村ね!」

 ふふっと、彼女は笑う。
 口元を汚れた手で押さえたので、顔が汚れる。

「行けるかなー」
「行くのよ!」
「本当に、怒られる覚悟だぞ!!」




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