彼女は彼を掴む。
「ねえ、早く行こうよ!」
「待て待て、今すぐには無理だ」
「じゃあ、いつ?」
「計画を練らねばなるまい」
「隣の村に行くのに、そんなに、壮大な感じ??」
「お前な。父親に怒られる覚悟ある?」
「うっ、」
だろう? と、彼は腕を組む。
「いかに、ばれずに村を出て、ばれずに戻ってくるか」
「うん」
「計画を立てなければ!!」
「どうやって?」
「任せろ、そう云うのは得意だ!」
「じゃあ、任す!」
「媛さんは怒られる覚悟をしておくんだ」
「怒られないように、計画を立てるんでしょう!」
……と、彼女は首を傾げる。
「そう云えば、この前も云われたような」
「何を?」
「父様に怒られる覚悟が出来たら、家に連れて行ってくれるって」
「えっ!!」
「結局、それっきり会ってないけど」
「いや、誰! それ誰!!」
「東一族の誰か」
「誰だよ!!」
「判んない」
「ずいぶんだぞ、お前ずいぶんだそ! その言葉だけ聞くと!!」
「だって、村のおうちを見てみたかったんだもん!」
「怪しいって、絶対、そいつ!!」
「でも、もう、誰かは判らないもん」
「何だよ、そう云うの気を付けろ!」
「父様は誰だか、知っている風だったけど」
「おいおいおい。死んだな、そいつ」
「あっ!!」
「だから、急に動くのやめて!」
またもや突然の動きに、彼は彼女を追いかける。
「何これ、見ーつけたっ」
「ほんっと、媛さんっ……」
彼は肩で息をする。
「じゃーん!」
「おお」
「装飾品だわ」
彼女は、旧ぼけた東一族特有の装飾品を見つけ出す。
あまりにも旧すぎて、掘られている模様も、判らない。
「このあたり、よく転がってるんだよ」
「へえ」
「置いて行けよ」
「なぜ?」
「持って帰っても、何にもならない」
「磨けばいいんじゃない?」
「あのな」
彼が云う。
「みんな、意味があって、ここに装飾品を置いていくの!」
「意味? 願い事が叶うとか?」
私も、と、彼女は自身の装飾品を外す。
「舟に乗りたぁーいぃっ!!」
「待って媛さんっ、待って!!」
彼は、すんでのところで装飾品を掴む。
「そう云うことじゃないから、本当にっ!!」
「なら?」
「叶わなかった恋を悲観するの!」
「恋!?」
「そう!」
「医師様が云っていた」
「医師様が……」
「その昔、医師様のご兄弟だかも恋叶わず、装飾品を投げたとか」
「何てこった」
大人の事情はいろいろなのである。
それならば仕方ない。
彼女は思いっきり、装飾品を遠くへ投げる。
その装飾品は、音を立てて水辺の中へと落ちる。
「さようなら、医師様のご兄弟の恋」
「いや、その装飾品かは判らないから……」
「…………」
「…………」
「…………」
「帰るか?」
「そうね」
彼女と彼は歩き出す。
「じゃあ、次は南一族の村ね!」
ふふっと、彼女は笑う。
口元を汚れた手で押さえたので、顔が汚れる。
「行けるかなー」
「行くのよ!」
「本当に、怒られる覚悟だぞ!!」
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