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「未央子と陸院と南一族の村」7

2020年06月09日 | T.B.2017年
何の冗談だろう、と未央子は思う。

父親が、
南一族の村に居る。

今朝、は会えていないが
昨日の夜、
夜勤に向かうのを見送った。

では、此所にいるのは、誰だろう。

同じ背格好で、
顔も、声も、仕草も同じ。

ただの、他人の空似?

混乱しながら未央子は呟く。

どういう事なの。

「………おとう、さん」

その瞬間、その人が眼を細める。
そういう表情をする時に
目尻にシワが出るのも同じ。

彼の呟きを未央子は聞き逃さなかった。

「カイイン、の娘?」

え?と思っている間に、
彼はその場を立ち去る。

「待って!!
 今、なんて」

「もし」

「え?」

「もし、今の生活を続けたいのならば、
 この事は誰にも言わない方がいい」

父親の安全の為にも、と
彼は言う。

「何を」

凍り付く未央子に、
だってほら、と彼は言う。

「同じ顔をした者は
 会わない方が良いんだろう。
 そういう迷信だ」

冗談だよ、とそう言って、
未央子に笑みを見せる。

「会えて良かったよ、東一族の人。
 今日は観光かな?
 南一族の村を楽しんで」

それから作業に戻り
バタバタと病院に向かう彼を
引き留められる訳もなく、

「………」

未央子は暫くそこに立ち尽くしていたが
仕方無く村の広場に引き返す。

「他人の、空似?」

確かに、
そうでなければ説明がつかない。

彼には南一族の証である
頬の入れ墨もあった、けれど。

「カイイン」

そう、彼は呟いた。

カイインの娘、と。

「未央子、どこ行ってたんだよ!!」

広場に戻ると
若干涙目の陸が居る。

「僕、てっきり
 置いていかれたのかって」
「悪かったわよ。
 ………話、終わったの?」
「ああ、うん」

終わったというより、
切り上げてきた感が強い。

分かれる前より
顔色が悪い気がする。

「というか、未央子こそ大丈夫か?」

めっちゃ真っ青だけど、と
逆に心配される。

「だ」

なんで、陸が、陸院がそんな事を言うんだろうか。
普段は絶対、他人を気がける事を言わないクセに。

「え、未央子」

「大丈夫、よ。
 なんでそんな事言うの」

わ、と
思わず涙が溢れてくる。

悲しいというよりは
混乱して、
今起きたことに頭が付いていかない。

だから、

今の一言で
なんだかいろんな事が緩んでしまった。

ぽろぽろと涙が溢れてくる。

「陸院のくせに、
 気遣いとかしないでよ」

「えぇえ」


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