TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「辰樹と媛さん」14

2020年06月12日 | T.B.2020年

 また別の日。

 少しだけ、暖かくなる。

 まだ少し雪が残る道を、ふたりは歩く。

「雪って全部溶けないねぇ」
「そうだな」
「風は冷たいし」
「そりゃそうだ」

 彼が云う。

「花だって咲いてない」
「ええ?」
「だから。花が咲いてないから、寒いだろう?」
「逆よ」

 彼女が云う。

「暖かくならないから、花が咲いてないの」
「えっ、そうなの」
「ちょっと、」

 彼女は息を吐く。

「兄様、大丈夫?」

 はは、と彼は笑う。

「頭悪いの、ばれるな」
「兄様、課業の評価、どれくらい?」
「上から4つ目!」
「それ下から2番目!!」

 5段階評価だった。

「この評価って、ちゃんとやればみんな上を取れるやつだよね!?」

 みんな満点なら、全員が上の評価になれる。

「それが不思議なことに、俺はいつも上から4つ目なんだよなぁ」

 彼は首を傾げる。

「さっき、自分で頭悪いって云ってた、兄様……」

 やれやれ、と、彼女は手を広げる。

 ふたりは歩く。
 誰にも会わない。

 彼が指を差す。

「ここが、川だ」
「わあ、川!」
「そう!」
「みんなで泳いだりするんだよね!!」
「男がな!」
「いいなぁ、楽しそう」
「楽しいぞ!」

 彼が云う。

「水量が増えたときだな(危険です)、泳ぐのめっちゃ楽しい!」
「いいなぁ!!」
「下りてみよう」

 彼女は道を進もうとする。

「媛さんこっちだ!」
「え?」
「こっちこっち」
「この道じゃないの?」
「通のやつはこっちだ!」

 彼は、別の、川辺へと続く道に入る。

「これは楽しいやつ!」

 彼女は、彼の後に続く。
 ちゃんとした道じゃない道。
 雪が多く残っている。

「冷たいっ」
「負けるな、媛さん!」
「兄様待ってよ」

 川辺に出ると、彼女は、うろうろとする。

「東一族の村に、こんなところがあるなんて」
「普通だけどな!」
「まだ行ったことがない場所があって、うれしいって意味!」
「それはよかった」
「あっ!」

 彼女は、川辺の隅に箱を見つける。

「こんなところにも、秘密道具発見!」
「代々受け継がれし道具だ!」

 ふたりは笑う。

「こんな場所、ほかにもある?」
「あるある」

 東一族の子どもたちが秘密基地のように遊ぶ場所。

「行こう行こう!」
「行くぞ!!」

 とりあえず今は川で泳げないので、移動。

「あっ、兄様!」
「え、また!?」

「見て」

 彼女は、川辺の端に屈み込む。

「何?」
「花!」

 残る雪の合間から、黄色の花が顔を出している。

「花が咲く時期までもう少しね!」
「だな!」




NEXT



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「未央子と陸院と南一族の村」7 | トップ | 「未央子と陸院と南一族の村」8 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

T.B.2020年」カテゴリの最新記事