また別の日。
少しだけ、暖かくなる。
まだ少し雪が残る道を、ふたりは歩く。
「雪って全部溶けないねぇ」
「そうだな」
「風は冷たいし」
「そりゃそうだ」
彼が云う。
「花だって咲いてない」
「ええ?」
「だから。花が咲いてないから、寒いだろう?」
「逆よ」
彼女が云う。
「暖かくならないから、花が咲いてないの」
「えっ、そうなの」
「ちょっと、」
彼女は息を吐く。
「兄様、大丈夫?」
はは、と彼は笑う。
「頭悪いの、ばれるな」
「兄様、課業の評価、どれくらい?」
「上から4つ目!」
「それ下から2番目!!」
5段階評価だった。
「この評価って、ちゃんとやればみんな上を取れるやつだよね!?」
みんな満点なら、全員が上の評価になれる。
「それが不思議なことに、俺はいつも上から4つ目なんだよなぁ」
彼は首を傾げる。
「さっき、自分で頭悪いって云ってた、兄様……」
やれやれ、と、彼女は手を広げる。
ふたりは歩く。
誰にも会わない。
彼が指を差す。
「ここが、川だ」
「わあ、川!」
「そう!」
「みんなで泳いだりするんだよね!!」
「男がな!」
「いいなぁ、楽しそう」
「楽しいぞ!」
彼が云う。
「水量が増えたときだな(危険です)、泳ぐのめっちゃ楽しい!」
「いいなぁ!!」
「下りてみよう」
彼女は道を進もうとする。
「媛さんこっちだ!」
「え?」
「こっちこっち」
「この道じゃないの?」
「通のやつはこっちだ!」
彼は、別の、川辺へと続く道に入る。
「これは楽しいやつ!」
彼女は、彼の後に続く。
ちゃんとした道じゃない道。
雪が多く残っている。
「冷たいっ」
「負けるな、媛さん!」
「兄様待ってよ」
川辺に出ると、彼女は、うろうろとする。
「東一族の村に、こんなところがあるなんて」
「普通だけどな!」
「まだ行ったことがない場所があって、うれしいって意味!」
「それはよかった」
「あっ!」
彼女は、川辺の隅に箱を見つける。
「こんなところにも、秘密道具発見!」
「代々受け継がれし道具だ!」
ふたりは笑う。
「こんな場所、ほかにもある?」
「あるある」
東一族の子どもたちが秘密基地のように遊ぶ場所。
「行こう行こう!」
「行くぞ!!」
とりあえず今は川で泳げないので、移動。
「あっ、兄様!」
「え、また!?」
「見て」
彼女は、川辺の端に屈み込む。
「何?」
「花!」
残る雪の合間から、黄色の花が顔を出している。
「花が咲く時期までもう少しね!」
「だな!」
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