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「辰樹と媛さん」13

2020年06月05日 | T.B.2020年
 お茶を飲みながら、彼は火をつつく。

「なあ、媛さん」
「何?」
「訊きたかったんだけど」
「どうぞ」

「媛さんって、どの家系なの?」

「私?」

 その今更感に、彼女は首を傾げる。

「私は娘よ」
「誰の?」
「いわゆる宗主様の」

「そっ!」

「私の父様は現宗主」

「宗主様!!?」

 思っていなかった答えに、彼は慌てる。

「え!? 宗主様!?」
「だからそうだって」
「実の!?」
「娘」
「直系!!」

 媛さんは高位だと思っていた。
 けれども、まさか、実の娘だとは気付いていなかった、彼。

「確かに、媛さんのことを宗主様に頼まれたけど!」
「うん」

 彼女は湯飲みを差し出す。
 おかわりちょうだい。

「いったいいつから!?」
「どう云うこと?」

 彼の難解な台詞に、彼女は苦笑い。

「宗主様に娘がいたと!?」
「うん」

 彼女は云う。

「でも、一族の人にはなぜか知らせてないようで」
「あれ? ちょっと待て!!」

 もはや上の空で、彼はお茶を注ぐ。

「つまり、お前って陸院(りくいん)の妹!?」

 彼女は鼻で笑う。

「え、何? 今の笑い、何? あっつ!!」

 お茶が溢れた。

 宗主の子として彼が知っているのは、その陸院、だ。
 おそらく、東一族はほぼそう思っている。はず。
 そういや最近、陸院の姿をあまり見ないような気もするけど。

「あれが、本当に宗主様の息子だと思う?」
「……何と!!」

 彼はいろいろ焦る。
 手をひらひらさせ、雪を握りしめる。

「ちょっと、手は大丈夫?」
「これは大丈夫!」
「熱そうだけど……」
「いや、うん。俺もおかしいと思ったんだ!」
「何が?」
「あいつ、ってほど、強くないよな!」

 彼が云う。

「いや。強いか強くないかで云うと、割と出来る方だけど」

 何か、力説。

「戦術大使でもあった宗主様の息子かって云われると」
「うん」
「微妙……!」
「あなたって、とても正直に云うのね」

 媛さんは、彼に金の斧を渡したくなった。

「とにかく、今の宗主様は家系がやっかいなのよ」
「大変だな」

 彼は訊いてはいけないと、空気を読む。

「私もよく判らないし!」

 ふたりはお茶を飲む。

 空を見る。
 雪がちらちらと降り出す。

「そう云えば、この前、お屋敷で誰かに会って、」
「誰かって……」
「そのことをすばり訊いてみたんだけど」
「そのこと……」
「今の宗主様の家系ってどうなってるの? って」
「ずいぶん、ずばりだな」

 彼は笑う。

「その誰か、困っただろうな!」
「ふふっ」
 彼女も笑う。
「しどろもどろにお答え出来ません存じ上げません! って云われちゃった!」
「あははは!」
「困っちゃったのね、きっと!」
「だな!」

 彼は訊く。

「誰に訊いたんだ?」
「父様ぐらいの、男の人」

 彼女は思い出す。

「確か、占術大師って、云ってたけど」
「……占術?」
「大師」
「…………」
「…………」
「…………」
「兄様?」

「それ、うちの父親だ!!」




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