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「未央子と陸院と南一族の村」8

2020年06月16日 | T.B.2017年
何か食べよう、と
2人は小さな食堂に入る。

未央子は食べる気にはなれなかったが
昼食をとっていない陸院に
1人で食べろというのも気が引けるので
軽い物を、とお願いする。

暫くして陸院は
器を二つ持って戻ってくる。

「ほら、未央子」
「ありがとう。
 何だろうこれ、麺?」
「にゅーめん、だって。
 僕もよく分からないけど」

ほら、と陸院は言う。

「暖かい物食べたら落ち着くよ」

「………ええ」

今日、この季節にしては
結構暖かいというかむしろ暑い日。

なんだけど。

「まあ、いいか」

いただきます、と手を合わせ
スープを一口。

暖かい。

さっぱりとした味が染みて
ほう、と未央子は息を吐く。

胃に染みて、
じわじわと空腹を感じていく。

「おいしい」
「落ち着くよね」

向かいあわせで腰掛けている陸院も
そう呟く。

きっと陸院も落ち着きたいのだろう。

「陸院……ええっと、陸は」
「うん」
「もう用事は済んだの」
「………うん」

ぱたん、と箸を置くと
暫く無言で器を眺める。

「済んだよ」

それから、覚悟を決めたように
麺をかき込む。

「熱っ!!おいしいねこれ、
 未央子も食べなよ」

ずるずる、と音を立てて、
あまり行儀の良い食べ方ではない。
たぶん、宗主の家では怒られそう。

「陸」

ずっ、と陸院は鼻を啜る。

「あーあ、鼻水まで出てきちゃった。
 熱いの食べるとこれだから困るな」

「そうね」

今陸院の顔を見ちゃだめなんだろうな、と
下を向いたまま未央子は頷く。

するり、と陸院の荷物から
蛇の雅妃子も顔を出し
陸院に寄り添う。

「なんだよ、雅妃子まで」

暫く陸院が鼻を啜る音が聞こえた。

「「ごちそうさま」」

2人は手を合わせる。

「デザート頼む?」
「え、いいわよ」

遠慮する未央子に
良いから、と陸院は言う。

「女子には、甘い物食べさせとけって、
 明院が言ってた」
「むう、明院め」

と、未央子はメニューを眺める。

「じゃあ、折角だから
 白玉あんみつをお願いするわ」

「それで」

と、運ばれてきた白玉あんみつのボリュームに
マジかという顔をしながら
陸院が言う。

「未央子はどうしたのさ」

「………そうよね」

聴くわよね。
あんな大泣きしてしまったのだから。

「………」

うーん、言っていいのかな、これ。と
悩む未央子に、
まさか、と陸院が青ざめる。

「えっと、まさか
 何か変なことされた!?」

警察行く!?と慌て出す。

「違う!!そう言うのじゃ無い!!」

ああもう、と未央子は
仕方なしに先程の事を話す。

「ふうん、
 医者に似た男」

で、それが、と
陸院はよく理解出来ない。

「でも、本人が違うって
 言ってるんだろ」

本当に赤の他人で、
他人の空似じゃないのか、と。
話を聴いただけならそんな物だろう。

でも、あれは
他人の空似にしては
あまりにも。

「うーん、」

未央子は上の空の返事を返す。

「それか、ほら
 血筋を辿ると東から分かれてて
 ひいひいひいひい~曾祖父さんが同じ
 遠い親戚だったり」

「親戚」

ねえ、と未央子は問いかける。

「陸は、カイインって知ってる?」

はぁ?と陸院は首を捻る。

「当たり前だろ、父さん………宗主様の事か」
「違う、宗主様はカイン、佳院様、
 カ、イ、イ、ン!」

「誰だ、それ?」

聞いた事が無い、と陸院は答える。

「私の、叔父さんよ。
 お父さんの弟」
「お前に叔父なんて居たのか!?」
「居た、のよ」

未央子は言う。

「もう居ない。
 私が生まれるより前に
 死んでしまった人、よ」


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