「屋敷を、……出ちゃいけないんだ」
「うん」
彼が訊く。
「外に出ることは、ずっと、禁止されている?」
「禁止?」
彼女は首を傾げる。
「その云い方だと、何かの罰みたい」
笑う。
「外に出ちゃいけないのは、外は危ないからって、父様が心配するからなの」
「……そう」
彼が訊く。
「君の住む屋敷と云うと、宗主……、様の屋敷?」
宗主とは、東一族の長である。
代々、同じ家系が、宗主を務めている。
彼女が頷き、云う。
「それも、内緒だよ」
彼が訊く。
「じゃあ、君は東一族の高位家系なんだね」
彼女は、彼を見る。
「全部、内緒だよ」
彼女は、近くの石に腰掛ける。
彼は立ったまま、云う。
「内緒なのに、俺には話していいの?」
「そうね」
彼女が云う。
「あなたには話しちゃった。何でだろう」
そう、首を傾げる。
彼が訊く。
「俺とは、はじめて?」
「うん。はじめて会うと思うよ」
彼女は、再度、彼を見る。
「はじめてじゃなかったら、ごめんなさい」
彼女が云う。
「あまり村に出たことがないから、人の顔を覚えられなくて」
「そうか」
彼が云う。
「俺も、君とは、はじめて会うと思う」
彼女は笑う。
「変な会話」
「そう?」
「うん」
彼女は笑い続ける。
彼が云う。
「ねえ。もう少し、訊いてもいい?」
「何を?」
「うーん」
「じゃあ、坐ったら?」
「うん」
「どうぞ」
「ありがとう」
彼は、近くに腰掛ける。
空を見上げる。
青空、だ。
彼が口を開く。
「君の父親って、宗主?」
「そうよ」
彼女が云う。
「でも、私が宗主の娘ってことを、知らない人が多いの」
「そう、だろうね……」
「え?」
「いや。……、そう。俺も知らなかったから」
彼が訊く。
「宗主の名まえは?」
その問いに、彼女は目を見開く。
「東一族なのに、そんなことも知らないの?」
「……うーん」
彼は、答えをはぐらかす。
「ねえ」
彼女が訊く。
「あなたはどのあたりに住んでるの?」
「俺?」
一瞬、彼は困った顔をする。
考える。
一応、答える。
「村の外れ、と云うか」
「今度連れてって!」
彼女は目を輝かせる。
「村のお家をね、見てみたいの!」
「でも」
彼が云う。
「村に出たら、父親に怒られるんじゃないの?」
「こっそり行くのよ!」
「こっそり?」
「そう!」
彼は考える。
「それじゃあ、怒られる覚悟が出来たら連れて行くよ」
「怒られるって、誰に?」
「君の父親」
「私が?」
「お互い」
「大丈夫。大丈夫。絶対に見つからないから!」
彼女は、指を差し出す。
「何?」
「約束の印」
「約束出来るかな」
「出来る出来る!」
彼女は笑う。
「ほら! 指を出して」
彼は、指をつなぐ。
「約束だよ!」
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