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「琴葉と紅葉」11

2016年07月22日 | T.B.2019年

「あんた、村長の家に帰りなさいよ」

 窓を閉めながら、琴葉が云う。

「なぜ?」
「なぜって」

 琴葉は言葉に困る。

 ……おそらく。

 彼も、追い出される形で、ここに来たのだ。
 帰れと云っても、帰れないのだ。

 もし、このまま、自身が嫌がり、
 ここにも住めない、と、彼が判断したら、彼は、どこへ行くのだろう。

 西一族の村を出て行くのだろうか。
 そうしたら、

 そのあとは、どこへ?

「ああ、これ」

 彼が声を出す。

 そこに

 ずいぶんと前に、彼がとった、花。

「あのときの?」
「そう」
「普通、この花は、すぐ枯れてしまうのに」
「ふーん」

 琴葉が云う。

「結構、保っているけどね」

 ああ、そうだ。

「そのときのことだけど」
 琴葉は、彼から目をそらす。
「私の名まえ、紅葉じゃないから」

 彼は、琴葉を見る。

 けれども、琴葉は目を合わさない。

「紅葉って、嘘だから」

 彼は頷く。

「一応、訂正したからね!」

 彼は、再度頷く。

「ほら、お詫びに、この前の肉を出すわ!」

 琴葉は、塩漬け肉を取り出す。
 これも、彼にもらったもの。

「あれ……。私、もらいものばっかね」

 琴葉は鍋を取り出す。

「いいよ」
「え?」

 彼が云う。

「それは、君が食べて」
「何よ」
 琴葉が云う。
「私にお詫びをさせないつもり?」

 彼は首を振る。

「西一族は、肉を食べる一族だから、」
「何、その云い方」
 琴葉は目を細める。
「自分も、その形で、同じ一族のくせに」

 彼が云う。

「我慢してたのかと」
「え?」

 それ以上、彼は云わない。

「……我慢してたって」
 琴葉が云う。
「狩りに参加しないから、肉を食べるのを、ってこと?」

 琴葉は、ますます目を細める。

 それは、……当たっている。

「だから、それは、君が食べて」
 彼が云う。
「また、獲ってくる」

「……どうせ、作るんだから、ふたり分も一緒よ!」

 琴葉は持っている肉を見る。

「あんたも、食べなさいよ」
 彼は答えない。
「……いや。食べる、でしょ?」

 彼は首を横に振る。

「はあ?」
「……肉を食べることが出来なくて」

 彼女は、眉間にしわを寄せる。

「西一族のくせに、肉食べないって、どう云うことよ!?」



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