「危ないわ!」
突然の声。
カオリは驚き、身体をすくめる。
その瞬間、鳥が大きく羽を広げる。
「待って!」
慌てて、マユリは鳥を制止する。
カオリは、思わず後ずさる。
「何をやっているのよ!」
「メグミ姉様……」
カオリは大きく息を吐いて、横を見る。
カオリの義母姉、メグミ。
「カオリ、あなたじゃ無理に決まってる」
その言葉に、カオリは肩を落とす。
「マユリは大丈夫だから、つい……」
「マユリとあなたは違うのよ」
「でも、私はフタミ家で、マユリはハラ家なのに、」
「家柄で鳥が懐いてくれると思ったら、大間違い」
メグミは、義母妹をにらむ。
山一族には三つの家系が存在する。
フタミ家とハラ家は、そのふたつだ。
フタミ家は、鳥師家系。
主に鳥飼いの能力に優れている。
ハラ家は、占師家系。
占い能力に特化した者を輩出している。
「でも、姉様」
「でも、でも、って、今度は何よ?」
「鳥が威嚇してきたのは、姉様が大きな声を、」
「何ですって?」
メグミは、ますます目を細める。
その様子を見て、マユリは笑う。
口を開く。
「メグミ様、こちらへ何用ですか?」
マユリが云う。
「まだ、メグミ様の鳥は戻って来ておりませんが」
「ああ、それは、いいのよ」
メグミは息を吐く。
「私の鳥は、あいつが連れて行ってるから」
「あいつ?」
カオリは首を傾げる。
「あいつって。姉様、誰のこと?」
「カオリのお兄様よ」
マユリは代わりに答え、メグミに向く。
「ひとりで二羽も?」
メグミは鼻で笑う。
「あるのは、その才能だけだから」
山一族の鳥は、賢い。
故に、
鳥も、人を選ぶ。
二羽同時に、鳥を従えることは、非常に難しいとされる。
「その才能だけって!」
カオリは、思い出したように云う。
「兄様の才能はそれだけじゃないわ! この前なんかね」
「どうでもいいわ、弟の話は」
「いいえ、聞いて姉様!」
楽しそうに、カオリは話を続ける。
「……判ったわよ、カオリ」
メグミはため息をつき、話を続けるカオリの肩を持つ。
「その前に、私の話を聞いて」
マユリは、首を傾げる。
「メグミ様。何かあったのでしょうか?」
「ええ、重要な決定が、ね」
「決定?」
メグミは、カオリを見る。
「あなたへの、伝言があるの」
「私に? 誰から?」
「本日。夜が更け次第、フタミ様のもとへ」
カオリは、目を見開く。
「フタミ様のところへ?」
カオリは困惑する。
「姉様、何かあったの?」
「話はそのとき」
メグミが云う。
「指示通り、フタミ様のところへ行くのよ」
「姉様……」
「マユリ」
メグミは、マユリを見る。
「弟には、この話を伝えないように」
マユリは頭を下げる。
「判りました」
メグミは背を向け、歩き出す。
マユリは、空を見る。
雨が、降り出す。
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