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「小夜子と天院」11

2014年11月21日 | T.B.2017年

「小夜が知らないこと、ほかに何があるかなー」

 そう云う宗主の息子は、少し、楽しそうだ。

「そうだ。小夜は、天院のお母さん、知ってる?」
 宗主の息子の隣にいる小夜子は、何も云わない。
 ただ、首を振る。

 少し離れたところにいる天院は、その場から動かない。

「そうかー。知らないかぁ」
 宗主の息子は、小夜子をのぞき込む。
「会いに行ってみる?」
「いえ……」
 小夜子は、目を合わせない。
「そんな、私はとても……」

「ふーん」

 そう云って、宗主の息子は、自分の足下を見る。

「あっ。見て」

 そこに、いつのまにか一匹の蛇がいる。
「僕の蛇なんだ」
 宗主の息子は、その蛇を持つ。

「ほら。父さんと同じ蛇だよ」

 そう、天院に、見せようとする。
「天院は、いつ、お付きをもらえるのかな?」
 まだ若い蛇、は、身体をうねらせる。

 高位家系の者は、お付きとして、何か生き物を連れている。
 生き物を従える能力が、備わっているのだ。

「小夜、見てよ」
 小夜子は後ずさりをする。

「この子、すごい毒を持っていてね」
 宗主の息子は、自慢げに話す。
「かまれると、すっごいしびれるらしいよ」
「そう、……ですか」
「早く試してみたいなー」
「…………」
「西一族とかで、さ」

 宗主の息子は、小夜子を見る。
 そして、天院に向く。

 天院は、何も云わない。

 宗主の息子は、天院の表情を見る。

「あ。西一族のそっくりさんでもいいかなー」
「…………」
「例えばー、天院のお母、」

 その瞬間。

 天院は、宗主の息子の胸ぐらを掴む。

 離れたところにいたはずなのに、宗主の息子の目の前に、いる。

「ひ!」
 天院は、宗主の息子を見る。
「天、院……」
 天院は、もう片方の手で、宗主の息子が持つ蛇の頭を、捕らえている。
「あ、いつのま、に……」

「西一族のそっくりさん、て、お前のことかと思ったよ」

 天院は、宗主の息子を掴む手に、力を込める。

「天院……、やめて」
 宗主の息子は、顔をこわばらせる。
「ほら、……また、父さんに怒られちゃう、……よ」

「別に」

 天院が云う。

「慣れてるし」

「あ、あぁ。じゃあ、小夜で試す?」
 宗主の息子は、天院に掴まれたまま、あざ笑う。

「……小夜子」

 天院は、震える小夜子を見る。
 云う。

「行くんだ」

 小夜子は動かない。

「小夜子!」

 顔をこわばらせたまま、小夜子は小さくゆっくり頷く。
 少しだけ、身体を動かす。

「小夜!」
 今度は、宗主の息子が云う。
「行かないでよ!」
 小夜子は、背を向けて歩き出そうとする。
「ねえ、小夜!」
 宗主の息子が云う。
「今、ここからいなくなったら、罰だよ!」
 小夜子は、顔だけ振り返る。
 その表情は、こわばったままだ。

 天院が、小夜子を見る。

「大丈夫だから。行くんだ」



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