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「涼と誠治」21

2017年12月15日 | T.B.2019年

「どこへ行くの?」

 ひとりで村の外へ向かう涼に、村長の妻が声をかける。

 涼は立ち止まり、振り返る。

 村長の妻は涼を見る。
 涼の手には、弓が握られている。

「ひょっとして、山へ狩りに?」

 涼は頷く。

「ひとりで?」
「そう」
「誠治はどうしたの?」
「誠治はいいんだ」

「いいんだって、……大丈夫なの?」

「何が?」

「あなた、目が悪いでしょう」

 涼は首を振る。

「そんなことはない」

「いいえ。視力はほとんどないと、医者が云っているわ」

「…………」

「目も見えないのに、どうやってひとりで狩りをするの」

「いつも通り」
「いつもは誠治なり、誰か班の人がいる」

 村長の妻は息を吐く。

「ねえ。あなたの目、いったいどうしたの?」

 涼は首を振る。

「生まれつき?」

「違う」

「じゃあ、……あなたの父親が?」

「父親?」

「そんな話を、あの人がしていたわ」

 村長の妻は、村長のことを云う。

「あなたの父親は非道い人だったと」
「そんなことを?」
「だってあなたの母親のことも、……」

 村長の妻はそれ以上云わない。
 ただ一言。

「非道いのね」

 涼は首を振る。

 村長の妻は、涼の肩にふれる。

「とにかく気を付けて」

「大丈夫」

「足下をよく見て!」
「大丈夫。慣れているから」
「何かあったら、すぐにうちにいらっしゃい」
「何かって?」
「困ったら、ってこと」

 涼は頷く。云う。

「ひとつ怖いことがある」

「何? 目が見えないことよりも?」

「耳」

「耳?」

 村長の妻は、唖然とする。

「何、訳の判らないことを云っているの」

 涼は弓を握りなおす。
 空を見る。

 そろそろ、山へ入っておきたい。

「天気は大丈夫そうね」

 村長の妻が云う。

「大きな獲物が獲れることを祈るわ」

 涼は頷く。

 歩き出す。

「行ってらっしゃい」



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