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「ヨシキとセイコ」2

2016年07月19日 | T.B.1962年

「ごはんだよ」

彼は彼女を呼ぶ。

「もうそんな時間なの?
 気がつかなかったわ」

机の上に置かれた食事を
彼女はじっと見つめる。

「ヨシキはもう食べた?」
「うん、さっき済ませた」
「一緒に食べたら良いのに」

彼は、なるほどね、と
頷く。

「次はそうしようかな」

彼女は手を組み
祈りを捧げる。

「セイコのそれってお祈り?」
「そうよ、
 食材に感謝しますってね」
「ふぅん」

自分たちの「いただきます」と
同じ意味合いだろうな、と
彼は納得する。

「あいにく、
 野菜ばかりだけど」
「お野菜中心ってのも
 彩りがあっていいわよ」

キレイに盛りつけてあるわ、と
そういう彼女に
彼は苦笑する。

「……肉、食べたい?」

彼女は、うぅん、と
自分の足を見下ろす。

「今で充分。
 それに良いダイエットになってるもの」

「イヤミかな」
「違うって。
 あんなに毎日食べていたけど
 食べないなら食べないで平気な物ね」
「なら、
 ゆっくりで良いから食べて。
 それから、また、話をしよう」

彼は少し離れた席に座り
彼女が食事を取る様子を
しばらく見つめる。

「………」

黙々と、彼女が食事を取り
部屋には僅かに食器の音が響く。

「セイコは
 海に行きたいって言うけれど」

問いかけた彼に
彼女は顔を輝かせる。

「連れて行ってくれるの?」

「………」
「違うのか。
 それで、なぁに?」
「どうするの
 泳ぐつもりじゃないんだろう?」

ええ、と彼女は食事を続けながら答える。

「別に見るだけでいいのだけど」
「そんなもの?
 海一族の村に知り合いがいるとかじゃなくて?」
「本当よ。
 見るだけでいいって感覚
 男の人には無いもの?」

「俺は行くなら
 泳ぎたいし
 釣りもしたい」

「ふぅん。
 ヨシキ泳げるの?」
「いや、泳いだことは無い。
 訓練から必要だな」

あらら、と
嬉しそうに彼女は笑う。

「私、小さい頃、泳ぎは得意だったの。
 よく湖に飛び込んでいたわ」

「君らしいね」

その日、彼は自宅に帰り
手帳を開く。

今日の出来事を書き留めていく。
ここ最近の彼の日課。

【彼女が海に行きたいと言う】

そう書いて手帳を眺める。
しばらく考えて
彼はその一文を消す。


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